【第111回薬剤師国家試験】問92 化学平衡に関する記述(解なし) 解説

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第111回 問92
第111回 問92
理論問題|物理
化学平衡に関する記述
問題文
平衡状態にある次の化学反応に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
ただし、$\Delta_f H°$ は標準生成エンタルピー、(g) は気体状態、(s) は固体状態を表す。
$$\text{NH}_3\text{(g)} + \text{HCl(g)} \rightleftharpoons \text{NH}_4\text{Cl(s)} \qquad \Delta_f H° = -176.2 \text{ kJ/mol}$$
1
この反応はエントロピー駆動の反応である。
2
縦軸に平衡定数の対数を、横軸に絶対温度をとると右上がりの直線となる。
3
圧力を上げると平衡は右に傾く。
4
温度を上げると平衡は右に傾く。
5
アンモニアを加えると平衡は右に傾く。
正解の組み合わせです!
3・5はいずれも条件次第で解釈が分かれる選択肢(△)です。解説で背景を確認しましょう。
解なしとなった原因の選択肢です。
生成物が固体であることの扱いに解釈の余地があり、出題ミスの一因となりました。正解は選択肢5です。
×
不正解です。正解の組み合わせは 3と5 です。
解説で各選択肢の考え方を確認しましょう。
解説を見る
解なしについて
この問題は第111回薬剤師国家試験において解なしと判定されました。解なしの場合、その問題はなかったものとみなされ、配点から除外されます。

反応式:$\text{NH}_3\text{(g)} + \text{HCl(g)} \rightleftharpoons \text{NH}_4\text{Cl(s)}$  $\Delta_f H° = -176.2 \text{ kJ/mol}$

この反応は発熱反応($\Delta H < 0$)であり、気体2モルが固体1モルになる(気体のモル数が減少)反応。出題者は選択肢3と5を正解とする意図だったと考えられる。

選択肢記述検討
1 エントロピー駆動の反応である × 反応の自発性はギブズ自由エネルギー $\Delta G = \Delta H – T\Delta S$($\Delta G < 0$ で自発的)で判断する。
気体2モル→固体1モルへの変化はエントロピー減少($\Delta S < 0$)であり $-T\Delta S > 0$。エントロピー的には不利だが、$\Delta H = -176.2$ kJ/molの大きな発熱により $\Delta G < 0$ となり自発的に進む。
エンタルピー駆動:$\Delta H < 0$(発熱)で反応が進む → この反応
エントロピー駆動:$\Delta S > 0$(乱雑さ増大)で反応が進む → この反応には当てはまらない
2 縦軸に平衡定数の対数を、横軸に絶対温度をとると右上がりの直線となる × 問題文には「横軸は絶対温度($T$)」と明記されており、解釈の余地はない。ファントホッフの式:$$\ln K = -\frac{\Delta H°}{R}\cdot\frac{1}{T} + \frac{\Delta S°}{R}$$直線になるのは縦軸 $\ln K$、横軸 $\dfrac{1}{T}$(絶対温度の逆数)のとき。$T$ をそのまま横軸にとっても直線にはならない。この選択肢は標準的な誤答選択肢として成立しており、解なしの原因ではない
3 △ 圧力を上げると平衡は右に傾く △ ルシャトリエの原理では、気体のモル数が減る方向(右)に平衡が移動する。定容条件では正しいが、定容か定圧かが問題文に明記されていないため正誤を一意に定められず、解なしの一因となった
4 温度を上げると平衡は右に傾く × 発熱反応($\Delta H < 0$)では、温度上昇により平衡は吸熱方向(左)に移動する
5 △ アンモニアを加えると平衡は右に傾く △ 定容条件ではNH₃を加えると分圧が上昇し平衡は右に移動する(ルシャトリエの原理)。ただし定容か定圧かが問題文に明記されていない。定圧でNH₃を加えた場合は体積膨張によりHClの分圧が低下し、平衡が左に移動するケースも科学的に起こり得るため、解なしの一因となった
⚠️ 解なしとなった主な2つの理由:

① 問題文の熱力学記号の誤用
$\Delta_f H°$(標準生成エンタルピー)は「単体からその物質を生成するときのエンタルピー変化」にのみ使う記号(IUPACの定義)。化合物同士の反応には $\Delta_r H°$(標準反応エンタルピー)を用いるのが正しく、問題の根幹をなす記号の誤用は問題不成立の根拠となる。

② 平衡条件(定容 or 定圧)の未明記
選択肢3(圧力を上げる)・5(NH₃を加える)の平衡移動を議論するには定容か定圧かの明記が必要。
定容でNH₃を加えた場合:分圧が上昇し平衡は右へ移動する
定圧でNH₃を加えた場合:体積膨張によりHClの分圧が低下し、平衡が左に移動するケースが起こり得る
この前提条件が明記されていないため、正解を一意に定めることができなかった。
臨床メモ
あおい
薬剤師 あおい

この問題で扱った化学平衡の知識が薬剤師の実務で直接登場する場面はほとんどありませんが、基礎として支える場面はあります。

医薬品の安定性試験では、温度と反応速度の関係(アレニウス式)を使って加速試験のデータから室温での有効期限を推定します。ファントホッフの式と同様に「$\ln k$ vs $1/T$」のグラフを描く考え方が共通しており、製剤設計や品質管理の根拠となっています。

製剤研究や創薬の現場では、薬物と受容体・タンパク質との結合をギブズ自由エネルギー($\Delta G = \Delta H – T\Delta S$)で評価することがあります。「この薬はエンタルピー駆動で結合するのかエントロピー駆動か」を分析することで、より結合力の強い化合物の設計に活かされています。製薬企業の研究職では重要な知識です。

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