第111回
問114
理論問題|生物
IgG1の構造と電気泳動
問114 抗原Xに結合する単クローン由来のヒト免疫グロブリン(IgG1)は、2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)からなり、図1に示すように、2本の重鎖間と重鎖・軽鎖間に4つのジスルフィド結合を含み、分子量がほぼ同じ12個の構造単位で構成される。また、IgG1全体の分子量は約150 kDaである。
このIgG1分子を界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムの存在下で熱変性させ、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、タンパク質に結合する色素(クマシーブリリアントブルー)で染色した。ジスルフィド結合を還元する2-メルカプトエタノールを加えて熱変性を行った場合と、加えないで熱変性を行った場合では、図2に示すように、泳動結果に違いがあった。ただし、バンド2とバンド3に含まれる分子数の比は1:1であった。
以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
このIgG1分子を界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムの存在下で熱変性させ、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、タンパク質に結合する色素(クマシーブリリアントブルー)で染色した。ジスルフィド結合を還元する2-メルカプトエタノールを加えて熱変性を行った場合と、加えないで熱変性を行った場合では、図2に示すように、泳動結果に違いがあった。ただし、バンド2とバンド3に含まれる分子数の比は1:1であった。
以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1
2-メルカプトエタノールを加えて熱変性を行ったのは、実験2である。
—
2
バンド1から抽出したタンパク質は、電気泳動前のIgG1よりも強く抗原Xに結合することができる。
—
3
バンド2、バンド3の分子量は、それぞれ100 kDa、50 kDaと見積もられる。
—
4
バンド3のタンパク質は、熱変性によって切断された重鎖の断片である。
—
5
バンド2とバンド3のタンパク質は、いずれも抗原結合部位を含む。
—
正解です!
2-メルカプトエタノール添加=実験2。バンド2(H鎖)・バンド3(L鎖)はともに抗原結合部位(VH・VL)を含みます。
不正解です。正解は 1 と 5 です。
解説でIgG1の構造と電気泳動の考え方を確認しましょう。
解説を見る
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IgG1の構造と分子量の整理
IgG1全体:約150 kDa、12個の構造単位(各約12.5 kDa)、H鎖2本+L鎖2本
H鎖1本:4つの構造単位 → 約50 kDa L鎖1本:2つの構造単位 → 約25 kDa
ジスルフィド結合(S-S結合):H鎖間2つ+H-L鎖間各1つ(計4つ)
SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)では、SDSがタンパク質を変性・負電荷で均一にコーティングし、分子量の大小で分離する(小さいものほど速く泳動=下方に移動)。
IgG1全体:約150 kDa、12個の構造単位(各約12.5 kDa)、H鎖2本+L鎖2本
H鎖1本:4つの構造単位 → 約50 kDa L鎖1本:2つの構造単位 → 約25 kDa
ジスルフィド結合(S-S結合):H鎖間2つ+H-L鎖間各1つ(計4つ)
SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)では、SDSがタンパク質を変性・負電荷で均一にコーティングし、分子量の大小で分離する(小さいものほど速く泳動=下方に移動)。
【各実験の条件と予想される泳動パターン】
実験1(2-メルカプトエタノールなし):S-S結合は切断されない
→ IgG1全体(H₂L₂)が1つの分子として泳動 → バンド1本(約150 kDa)
実験2(2-メルカプトエタノールあり):S-S結合が還元・切断される
→ H鎖(約50 kDa)とL鎖(約25 kDa)に分離して泳動 → バンド2本
バンド2(上方・重い)= H鎖(約50 kDa)
バンド3(下方・軽い)= L鎖(約25 kDa)
分子数の比はH鎖2本:L鎖2本=1:1(問題文と一致)
→ IgG1全体(H₂L₂)が1つの分子として泳動 → バンド1本(約150 kDa)
実験2(2-メルカプトエタノールあり):S-S結合が還元・切断される
→ H鎖(約50 kDa)とL鎖(約25 kDa)に分離して泳動 → バンド2本
バンド2(上方・重い)= H鎖(約50 kDa)
バンド3(下方・軽い)= L鎖(約25 kDa)
分子数の比はH鎖2本:L鎖2本=1:1(問題文と一致)
【各選択肢の解説】
| 選択肢 | 記述 | 判定・理由 |
|---|---|---|
| 1 ★ | 2-メルカプトエタノールを加えたのは実験2 | ◯ 実験2でS-S結合が切断され2本のバンドが出現。実験1はS-S結合が残り1本のバンド(バンド1)のみ |
| 2 | バンド1から抽出したタンパク質は電気泳動前のIgG1より強く抗原Xに結合できる | × バンド1はSDS処理・熱変性後のタンパク質。SDSによって立体構造が破壊され、抗原結合部位(相補性決定領域:CDR)の立体構造が失われる。電気泳動後のタンパク質は抗原結合能を持たない |
| 3 | バンド2・バンド3の分子量はそれぞれ100 kDa、50 kDa | × IgG1(150 kDa)はH鎖2本+L鎖2本。H鎖1本=約50 kDa、L鎖1本=約25 kDa。バンド2が約50 kDa(H鎖)、バンド3が約25 kDa(L鎖)。100 kDaと50 kDaは誤り |
| 4 | バンド3のタンパク質は熱変性によって切断された重鎖の断片 | × バンド3は軽鎖(L鎖)全体であり、熱変性による断片ではない。S-S結合の還元によりH鎖とL鎖が分離したもの。熱変性でペプチド結合は切断されない |
| 5 ★ | バンド2とバンド3はいずれも抗原結合部位を含む | ◯ 抗原結合部位(Fab領域)はH鎖のVHドメイン+L鎖のVLドメインで構成される。 バンド2(H鎖)にはVH(可変領域)が含まれ、バンド3(L鎖)にはVL(可変領域)が含まれる。よって両バンドとも抗原結合部位の構成要素を持つ |
⚠️ 引っかけポイント:
・選択肢2:SDS-PAGE後のタンパク質は変性しており抗原結合能を持たない
・選択肢3:150 kDa÷(H鎖2本+L鎖2本)の計算。H鎖は12個の構造単位のうち4個分=約50 kDa、L鎖は2個分=約25 kDa
・選択肢4:バンド3はL鎖(軽鎖)全体。「熱変性による断片」ではなくS-S結合の還元による分離
・選択肢2:SDS-PAGE後のタンパク質は変性しており抗原結合能を持たない
・選択肢3:150 kDa÷(H鎖2本+L鎖2本)の計算。H鎖は12個の構造単位のうち4個分=約50 kDa、L鎖は2個分=約25 kDa
・選択肢4:バンド3はL鎖(軽鎖)全体。「熱変性による断片」ではなくS-S結合の還元による分離
臨床メモ
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薬剤師 あおい
IgG1はモノクローナル抗体医薬品のベースとなる構造です。トラスツズマブ(ハーセプチン)・ベバシズマブ(アバスチン)・ニボルマブ(オプジーボ)などの抗体薬は、このIgG構造をベースに抗原結合部位(VH・VL)を目的の標的に向けて設計されています。
SDS-PAGEは医薬品の品質管理でも重要な分析手法です。バイオ医薬品の純度確認・分子量確認・不純物検査に用いられ、日本薬局方にも電気泳動試験が収載されています。「2-メルカプトエタノール添加の有無でバンドパターンが変わる」という本問の考え方は、抗体医薬品の品質試験の理解にも直結します。










