【第110回薬剤師国家試験】問216-217 がん疼痛に対する医療用麻薬の使い方とアヘン由来麻薬成分の構造 解説

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第110回 問216-217
第110回 問216-217
実践問題|実務(216)・物理・化学・生物(217)
がん疼痛に対する医療用麻薬の使い方とアヘン由来麻薬成分の構造
問216-217(連問)共通問題文
問216-217 保険薬局に勤務している薬剤師が、看護学校の講師を担当することになった。講義では、植物に含まれている麻薬成分が医療用麻薬として使用されていることを紹介することにした。最近、高度のがん疼痛のある患者が、その初回の服薬を躊躇した事例を経験したことから、その場合の対応や、現場での医療用麻薬の有効な使い方についても講義しようと考えている。患者が服薬を躊躇した事例の処方薬は、モルヒネ塩酸塩水和物徐放性カプセルとモルヒネ塩酸塩水和物内用液であった。
問216(実務)
講義で伝える内容として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1
オピオイドを定期的に鎮痛に必要な量で投与すれば、がん患者の生命予後に影響を与えない。
2
がん疼痛管理にオピオイドを使用する場合、精神依存が生じる可能性は低く、オピオイドの使用を控える理由とはならない。
3
服薬を躊躇したこの高度のがん疼痛のある患者に対しては、弱オピオイドを提案する。
4
高度の腎機能障害がある患者に対しては、この事例の処方薬の投与を推奨する。
5
がん疼痛の突出痛がある場合、オピオイドの徐放製剤をレスキュー薬として投与する。
正解です!
解説でがん疼痛に対するオピオイドの基本原則を確認しましょう。
×
不正解です。正解は 1、2 です。
解説でがん疼痛に対するオピオイドの基本原則を確認しましょう。
問217
問217(物理・化学・生物)
また、講義ではモルヒネと同じ植物に含まれる麻薬成分である化合物Xについても紹介し、化合物Xは一般用医薬品の鎮咳薬としても利用され、一部ではその濫用が問題になっていることを述べることにした。化合物Xの化学構造式と、その基原となる植物写真の組合せとして、正しいのはどれか。1つ選べ。
化合物X候補の化学構造式A・B・Cと基原植物の写真ア・イ
選択肢化学構造式写真
1A
2B
3C
4A
5B
6C
正解です!
解説でコデインの構造と基原植物を確認しましょう。
×
不正解です。正解は 4(A・イ) です。
解説でコデインの構造と基原植物を確認しましょう。
問216の解説を見る

本症例は、高度のがん疼痛に対してモルヒネ(強オピオイド)が処方されたものの、患者が服薬を躊躇したケースです。医療用麻薬に対する誤解(依存・生命予後への悪影響等)を解き、正しい使い方を伝えることが講義のねらいです。

がん疼痛に対するオピオイド使用の基本原則
・鎮痛に必要な量のオピオイドを定期投与することは、がん患者の生命予後を短縮させるものではない。むしろ疼痛コントロール不良はQOLの低下を招き、間接的に予後へ悪影響を及ぼしうる
・がん疼痛管理下でのオピオイド使用による精神依存(addiction)の発生率は低いことが知られており、依存への懸念のみを理由に必要な鎮痛薬の使用を控えるべきではない
・WHO方式がん疼痛治療の原則では、痛みの強さに応じてオピオイドを選択する(除痛ラダー)。すでに強オピオイドが必要な高度の疼痛に対して、弱オピオイドへ変更することは治療の後退であり不適切
・モルヒネは腎排泄型の薬物であり、活性代謝物(モルヒネ-6-グルクロニド等)が高度腎機能障害患者では蓄積し、傾眠や呼吸抑制などの重篤な副作用を来しやすいため、投与は推奨されない
・がん疼痛における突出痛(breakthrough pain)に対するレスキュー薬には、効果発現の速い速放性製剤(内用液・速放錠等)を用いる。効果発現が遅い徐放製剤はレスキュー薬として不適切
各選択肢の解説
◯ 1 鎮痛に必要な量のオピオイドの定期投与は、がん患者の生命予後に悪影響を与えないという内容は適切
◯ 2 がん疼痛管理下でのオピオイド使用は精神依存のリスクが低く、その懸念を理由に使用を控えるべきではないという内容は適切
× 3 高度のがん疼痛には強オピオイドの継続・調整が必要であり、弱オピオイドへの変更提案は除痛ラダーに反し不適切
× 4 モルヒネは腎排泄型薬物であり、高度腎機能障害患者では活性代謝物の蓄積による副作用リスクが高まるため、投与推奨は不適切
× 5 突出痛のレスキュー薬には速放性製剤を用いるべきであり、徐放製剤は効果発現が遅くレスキュー薬として不適切
引っかけポイント:
・選択肢3:「高度の疼痛には弱い薬から」という直感に反する原則。痛みの強さに応じた選択(除痛ラダー)を正しく理解しているかが問われる
・選択肢4:モルヒネが本症例で実際に処方されている薬剤であるために「推奨してよい」と錯覚しやすいが、腎機能障害患者には不向きという薬物動態的な特性を見落とすと誤りやすい
・選択肢5:「徐放製剤=効果が長く続く=安心して使える」というイメージに引きずられやすいが、レスキュー薬には速効性が必須であり、徐放製剤では突出痛のタイミングに間に合わない
💡 あわせて読みたい:依存性薬物のゴロ教えます!(モルヒネ等の身体的依存の特徴)
問217の解説を見る

化合物Xは「モルヒネと同じ植物に含まれる麻薬成分」「一般用医薬品の鎮咳薬としても利用される」「濫用が問題になっている」という3つの手がかりから、コデイン(3-メトキシモルヒナン骨格)であると特定できます。

コデインの特徴
・コデインはモルヒネと同じケシ(Papaver somniferum、アヘン中に含まれるアルカロイド)に由来する天然の麻薬性アルカロイドである
・構造はモルヒネの芳香環側の水酸基(フェノール性OH)がメトキシ基(OCH₃)に変換されたもの(脂肪族側の水酸基は保持)であり、構造式Aがこれに該当する
・コデインは鎮咳作用を持つため、一般用医薬品(総合感冒薬・鎮咳去痰薬等)の成分としても利用されるが、その一方で乱用(過量服用による多幸感を目的とした濫用)が社会的な問題となっている
・基原植物の写真は、アが大麻草(Cannabis sativa、モルヒネ・コデインとは無関係の植物)、イがケシ(Papaver somniferum、モルヒネ・コデインの基原植物)であり、コデインの基原植物はイが正しい
各選択肢の解説(構造式の特定)
A:芳香環にOCH₃基(メトキシ基)、脂肪族側にOH基(水酸基)を持つ構造=コデインの構造と一致する
B:エポキシ架橋(酸素橋)を持たず、環構造・立体化学がモルヒネ骨格と異なる(オキシ架橋やOH基がない)構造であり、コデインとは異なる(合成鎮咳薬デキストロメトルファン等に類似した非天然型の骨格)
C:窒素上の置換基がメチル基ではなくアリル基(CH₂-CH=CH₂)であり、フェノール性OHとケトン基を持つ構造=オピオイド拮抗薬(ナロキソン等)に類似した構造であり、コデインとは異なる
:大麻草の写真であり、モルヒネ・コデインの基原植物ではない
:ケシの花の写真であり、モルヒネ・コデインの基原植物として正しい
以上より、正しい組合せはA・イ(選択肢4)である
引っかけポイント:
・選択肢2・3・5・6(ア=大麻草):「麻薬成分の基原植物」というキーワードから安易に大麻草の写真を選ばないよう注意。本問の化合物Xはあくまで「モルヒネと同じ植物(ケシ)」に由来する成分である
・構造式BやCは、モルヒネ・コデインの基本骨格(フェナントレン骨格+エポキシ架橋)の一部が改変された非該当構造であり、部分的な類似性に惑わされず、酸素橋の有無やN置換基の種類まで正確に見分ける必要がある
💡 あわせて読みたい:合成麻薬性鎮痛薬と非麻薬性鎮咳薬のゴロ教えます!
臨床メモ
あおい
薬剤師 あおい

「医療用麻薬=怖い・依存する」というイメージは、患者さんやご家族だけでなく、医療従事者を目指す看護学生さんの中にも根強く残っていることがあります。がん疼痛治療でのオピオイド使用は、痛みという明確な標的に対して必要量を計画的に投与するものであり、快感を求めて使用する乱用(コデイン等の濫用)とは全く異なる文脈であることを、講義や患者説明の際に丁寧に区別して伝えることが大切です。

同じアヘンアルカロイド由来でも、モルヒネは「医療用麻薬」として厳格に管理され、コデインの一部は「一般用医薬品」としても市販されている、という管理区分の違いも実務では重要なポイントです。乱用防止の観点から、コデイン含有製剤の12歳未満への使用制限など、近年の安全対策の動きも押さえておくと講義の説得力が増します。

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