第111回
問105
理論問題|化学
シスプラチンに関する記述
問105 シスプラチンに関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1
4つの配位子は、四面体の頂点の方向に配置している。
—
2
シスプラチンの異性体である A は、シスプラチンよりも強い抗がん作用を示す。
—
3
2種類の配位子のうち、アンモニアが解離して抗がん作用を示す活性錯体となる。
—
4
配位子が解離しやすいのは、血中よりも細胞内である。
—
5
活性錯体は、主にアの窒素に結合して抗がん作用を示す。
—
正解です!
Cl⁻が細胞内で解離して活性化し、DNAのグアニン N7 に結合します。
不正解です。正解は 4 と 5 です。
解説でシスプラチンの作用機序を確認しましょう。
解説を見る
▼
シスプラチンの基本
シスプラチン(cis-ジアミンジクロロ白金(II))は白金(Pt²⁺)を中心金属とする平面四配位型の錯体。平面正方形構造を持ち、2つのNH₃と2つのCl⁻がcis(同側)に配置している。異性体A(トランス体)は抗がん活性を持たない。
体内でCl⁻が解離して生成したアクア錯体(活性錯体)がDNAのグアニン塩基のN7位に架橋結合し、DNA複製を阻害して抗がん作用を示す。
シスプラチン(cis-ジアミンジクロロ白金(II))は白金(Pt²⁺)を中心金属とする平面四配位型の錯体。平面正方形構造を持ち、2つのNH₃と2つのCl⁻がcis(同側)に配置している。異性体A(トランス体)は抗がん活性を持たない。
体内でCl⁻が解離して生成したアクア錯体(活性錯体)がDNAのグアニン塩基のN7位に架橋結合し、DNA複製を阻害して抗がん作用を示す。
【各選択肢の解説】
| 選択肢 | 記述 | 判定・理由 |
|---|---|---|
| 1 | 4つの配位子は四面体の頂点の方向に配置 | × シスプラチンはPt²⁺(d⁸電子配置)の平面正方形型錯体。四面体型ではない。四面体型は主にd¹⁰配置の金属(Zn²⁺など)に見られる |
| 2 | 異性体Aはシスプラチンより強い抗がん作用を示す | × 異性体Aはトランス体(トランスプラチン)であり、抗がん活性はない(またはシスプラチンより著しく弱い)。シス配置でなければDNAへの架橋結合が適切な距離・角度で形成できないため |
| 3 | アンモニアが解離して活性錯体となる | × 解離して活性錯体を形成するのはCl⁻(クロロ配位子)であり、NH₃ではない。NH₃はPtとの結合が強く解離しにくい |
| 4 ★ | 配位子が解離しやすいのは血中よりも細胞内 | ◯ 血中はCl⁻濃度が高い(約100 mmol/L)ためCl⁻の解離が抑制される(共通イオン効果)。一方、細胞内はCl⁻濃度が低い(約4 mmol/L)ため、Cl⁻が解離してアクア錯体(活性錯体)が生成しやすい |
| 5 ★ | 活性錯体は主にアの窒素に結合して抗がん作用を示す |
◯ 「ア」はグアニン塩基のN7位(7位の窒素)を示している。シスプラチンの活性錯体はグアニンのN7に優先的に結合し、隣接するグアニン同士を鎖内架橋してDNA複製を阻害する。 【なぜ「ア」が7位とわかるか:プリン環の番号付けのルール】 プリン環(六員環+五員環の縮合環)の番号付けには3つの原則がある。 ①ヘテロ原子優先:炭素よりNやOにできるだけ若い番号を振る ②六員環から先に番号を振る:縮合環では大きい環(六員環)を優先するため、五員環のNは必然的に7位・9位になる ③番号が最小になる向きで回す:1位の位置は他のNの番号の合計が最小になるよう決める これにより六員環のNが1位・3位、五員環のNが7位・9位となる。「ア」は五員環側のN(9位ではなくH₂Oに面している方)で、電子密度が高く求核攻撃を受けやすいN7位に該当する。 |
【シスプラチンの作用機序まとめ】
① 血中:Cl⁻濃度が高い → Cl⁻は解離しにくい → シスプラチンのまま細胞内に取り込まれる
② 細胞内:Cl⁻濃度が低い → Cl⁻が解離 → H₂Oと置き換わりアクア錯体(活性錯体)生成
③ 活性錯体がDNAのグアニン N7 位に共有結合
④ 2か所のグアニンを架橋(鎖内架橋〔イントラストランド・クロスリンク〕が主)→ DNA鎖の曲がりが生じる
※ 同じDNA鎖内の隣接するグアニン同士を結ぶ鎖内架橋が主反応。鎖間架橋(インタストランド)や DNA-タンパク質架橋も一部生じる
⑤ DNA複製・転写が阻害 → 細胞死(アポトーシス)→ 抗がん作用
② 細胞内:Cl⁻濃度が低い → Cl⁻が解離 → H₂Oと置き換わりアクア錯体(活性錯体)生成
③ 活性錯体がDNAのグアニン N7 位に共有結合
④ 2か所のグアニンを架橋(鎖内架橋〔イントラストランド・クロスリンク〕が主)→ DNA鎖の曲がりが生じる
※ 同じDNA鎖内の隣接するグアニン同士を結ぶ鎖内架橋が主反応。鎖間架橋(インタストランド)や DNA-タンパク質架橋も一部生じる
⑤ DNA複製・転写が阻害 → 細胞死(アポトーシス)→ 抗がん作用
⚠️ 引っかけポイント:
・選択肢1:「平面正方形」と「四面体」を混同しない。Pt²⁺はd⁸で平面正方形が安定
・選択肢3:解離するのはCl⁻(クロロ配位子)。NH₃ではない
・選択肢4:血中と細胞内のCl⁻濃度の差(100 vs 4 mmol/L)が活性化の鍵
・選択肢1:「平面正方形」と「四面体」を混同しない。Pt²⁺はd⁸で平面正方形が安定
・選択肢3:解離するのはCl⁻(クロロ配位子)。NH₃ではない
・選択肢4:血中と細胞内のCl⁻濃度の差(100 vs 4 mmol/L)が活性化の鍵
臨床メモ
▼


薬剤師 あおい
シスプラチンは肺がん・精巣がん・卵巣がんなど多くの悪性腫瘍に用いられる代表的な抗がん薬です。主な副作用は腎毒性・嘔吐・末梢神経障害・聴覚障害です。腎毒性予防のため、投与前後に大量輸液(水分負荷)を行うことが必須です。
第2・3世代の白金製剤(カルボプラチン、オキサリプラチン)はシスプラチンの副作用を軽減するために開発されました。カルボプラチンは腎毒性が少なく、オキサリプラチンは大腸がんに有効で末梢神経障害が主な副作用です。「なぜ副作用プロファイルが異なるのか」も構造の違いから理解できます。












