82歳女性。東京都在住。息子夫婦と同居している。末期の胃がんで自宅での看取りを希望し、訪問診療と訪問看護を受けている。経口薬の服用が難しくなってきたため麻薬貼付剤を使用していたが、レスキューの使用回数が増え貼付剤での疼痛コントロールが困難になった。そのため、以下の持続皮下注射処方に変更となり、息子が処方箋を近隣の東京都内の薬局に持参した。電動式のPCA(自己調節鎮痛法)用のシリンジポンプを使用して持続皮下注射を行うこととなった。この患者がシリンジポンプを使用するのは初めてである。
| (処方) |
モルヒネ塩酸塩注100 mgシリンジ(100 mg/10 mL/本) 1本 持続皮下注0.25 mL/hより開始 PCA設定:0.25 mL/回 ロックアウトタイム15分 |
【問320】薬局における麻薬処方箋・麻薬の取扱い
| 選択肢 | 記述 | 判定・解説 |
|---|---|---|
| 1 ★ | 共同で都知事許可を受けた麻薬小売業者間の譲受 | ◯ 麻薬小売業者は、都道府県知事の許可を受けて、他の麻薬小売業者との間で麻薬を譲り渡し・譲り受けることができる。在庫不足等により調剤に必要な麻薬が確保できない場合の対応として認められている。 |
| 2 | 住所記載なしでも処方医確認不要 | × 麻薬処方箋には患者の氏名・住所等の記載が必須であり、記載漏れがある場合は処方医に確認しなければならない。「確認不要」は誤り。 |
| 3 ★ | 麻薬の譲受証は不要 | ◯ 麻薬譲受証は麻薬製造業者・卸売業者・小売業者間など事業者間での麻薬譲渡時に必要となるものであり、患者(または家族)が薬局で麻薬処方箋により調剤を受ける際には不要。 |
| 4 | 薬局に麻薬管理者を置く義務 | × 麻薬管理者は、麻薬施用者が診療に従事する病院・診療所等において、施用のために麻薬を管理する者として配置が義務付けられる制度。薬局(麻薬小売業者)には麻薬管理者の配置義務はない。病院・診療所と薬局の規定を混同させる典型的な誤り選択肢。 |
| 5 | 都外転居で調剤不可 | × 麻薬小売業者の免許は都道府県知事が与えるが、患者が都外に転居したことのみを理由に、当該薬局での調剤が直ちに不可能になるわけではない。処方箋に基づく調剤自体は可能であり、「調剤できない」という断定は誤り。 |
・選択肢2:麻薬処方箋の記載事項不備は必ず処方医に確認。一般の処方箋以上に厳格な取扱いが求められる。
・選択肢4:「麻薬管理者」は病院・診療所等の施設に置かれるものであり、薬局には不要。「麻薬小売業者」と「麻薬管理者」という似た用語の対象施設の違いに注意。
・選択肢3:「譲受証」という聞き慣れない用語に引っかかりやすいが、これは事業者間取引の話であり患者対応とは無関係。
【問321】PCAポンプの構造と在宅麻薬の取扱い
| 選択肢 | 記述 | 判定・解説 |
|---|---|---|
| 1 | 薬剤がなくなったら家族がセット | × シリンジの交換・セットは無菌操作や設定確認を伴う医療行為であり、訪問看護師や薬剤師等の医療従事者が行うべき業務。家族に交換させることは適切ではない。 |
| 2 ★ | 流速は患者・家族が変更不可 | ◯ PCAポンプの持続注入の流速(0.25 mL/h)は医療者が設定し、患者・家族による変更ができないようロック機能が備わっている。過量投与による呼吸抑制等のリスクを防ぐための安全機構。 |
| 3 ★ | ロックアウトタイム中はボタンを押しても薬剤が出ない | ◯ ロックアウトタイムとは、PCAボタンによる追加投与(レスキュー)後、一定時間(本症例では15分)は再度ボタンを押しても薬剤が投与されない設定。短時間での過量投与(オーバードーズ)を防止するための安全機構そのものを正しく説明している。 |
| 4 | 薬剤師は自宅に持参不可、毎回薬局に来る | × 在宅医療においては、薬剤師が患家を訪問し、麻薬を含む薬剤の交換・補充・服薬指導等を行うことができる(在宅患者訪問薬剤管理指導等)。「持っていけないので毎回薬局に来てください」という説明は在宅緩和ケアの実態と矛盾する。 |
| 5 | 2本以上処方時は未使用分を冷蔵庫保管 | × モルヒネ塩酸塩注は室温保存可能であり、冷蔵庫保管が必須とされる規定はない。麻薬であるため施錠保管(鍵のかかる場所での保管)が必要だが、「冷蔵庫保管」は誤った説明。保管温度と麻薬としての管理(施錠)の要件を混同させる選択肢。 |
・選択肢1・4:在宅緩和ケアにおいて「誰が(家族か医療者か)」「どこで(自宅か薬局か)」薬剤交換・受け渡しを行うかという役割分担の理解が問われる。シリンジ交換は医療者の業務、薬剤師は訪問可能。
・選択肢5:「麻薬=施錠保管」と「冷蔵庫保管」を混同させるパターン。モルヒネ注射剤に低温保存の規定はない。


「麻薬管理者」と「麻薬小売業者」の違い:「麻薬管理者」は病院・診療所等の施設で、麻薬施用者(医師等)が2名以上いる場合などに麻薬の管理のために置かれる者です。一方、薬局は「麻薬小売業者」として都道府県知事の免許を受けて麻薬を取り扱いますが、「麻薬管理者」という役職の配置義務はありません。「管理者を置く施設=病院・診療所」「免許を受けて取り扱う=薬局」とセットで覚えましょう。
PCAの3要素:①持続投与速度(ベース)、②ボタン1回あたりの追加投与量(ボーラス量)、③ロックアウトタイム(次のボーラスが有効になるまでの待機時間)。この3つはすべて医療者側が設定・ロックし、患者・家族は変更できません。「ボタンを押しても出ない時間がある」という説明は、患者・家族の不安(壊れているのでは?)を解消するためにも重要な情報提供です。
在宅における麻薬の運搬・廃棄:薬剤師は在宅患者訪問薬剤管理指導等により、麻薬を含む薬剤を患家まで運搬することができます。また使用後の空シリンジ等は、麻薬の取扱いに関する規定に従い、薬局や医療機関で適切に回収・廃棄します。本症例のように初めてシリンジポンプを使用する家族には、緊急時の連絡先(訪問看護・薬局)も併せて案内すると安心感につながります。












