【第110回薬剤師国家試験】問208-209 認知症患者の誤嚥予防とリバスチグミンの共有結合中間体 解説

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第110回 問208-209
第110回 問208-209
実践問題|実務(208)・物理・化学・生物(209)
認知症患者の誤嚥予防とリバスチグミンの共有結合中間体
問208-209(連問)共通問題文
問208-209 84歳男性。息子と二人暮らし。長年、近隣のクリニックで高血圧症と頻脈、アレルギー性鼻炎のため、処方1による薬物治療を受けていた。
(処方1)
ビソプロロールフマル酸塩錠5 mg
1回1錠(1日1錠)
エバスチン錠10 mg
1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 28日分
1年前の受診で、もの忘れが多く、その日の曜日が分からなくなることがたまにあり、付き添いの息子が処方医に相談したところ、神経内科の専門医を紹介され、そこで認知症と診断された。リバスチグミンテープ4.5 mgで治療を開始し、漸増の後、現在は処方1とともに処方2の薬剤の使用を継続している。
(処方2)
リバスチグミンテープ18 mg
1回1枚(1日1枚)
1日1回 朝 28日分
胸部、上腕部、背中のいずれかに貼付(全28枚)
今回来局した息子から、「医師には言い忘れたが、最近、服薬時や飲食・飲水時に、むせの頻度が以前より高くなったので、誤嚥性肺炎になることを心配している」との相談があった。
問208(実務)
息子の相談に対するアドバイスとして、以下のうち適切なのはどれか。2つ選べ。
1
誤嚥性肺炎の原因になるため、歯磨きは控えてください。
2
脱水時の水分補給には、経口補水液のゼリータイプをお勧めします。
3
処方1の薬剤を55℃程度のお湯に崩壊・懸濁させ、とろみをつけて服用させてください。
4
むせたときは、息子さんの判断で、以降は処方1の薬剤の服用を中止してください。
5
処方2の薬剤を内服薬のドネペジル塩酸塩錠に変更するように医師に提案できます。
正解です!
解説で誤嚥予防と服薬支援のポイントを確認しましょう。
×
不正解です。正解は 2、3 です。
解説で誤嚥予防と服薬支援のポイントを確認しましょう。
問209
問209(物理・化学・生物)
処方2に含まれる薬物は、下図のように、アセチルコリンエステラーゼの活性中心のセリン残基と反応し、共有結合中間体を形成する。
アセチルコリンエステラーゼの活性中心のセリン残基とリバスチグミンの反応
共有結合中間体の構造として、正しいのはどれか。1つ選べ。
1
選択肢1の構造
2
選択肢2の構造
3
選択肢3の構造
4
選択肢4の構造
5
選択肢5の構造
正解です!
解説でカルバメート系阻害薬の反応機構を確認しましょう。
×
不正解です。正解は 1 です。
解説でカルバメート系阻害薬の反応機構を確認しましょう。
問208の解説を見る

本症例は、リバスチグミンテープ(貼付剤)で認知症治療を継続している高齢患者に「むせ」が出現したケースです。誤嚥性肺炎を防ぎつつ、必要な薬物治療(降圧・頻脈治療薬、認知症治療薬)を安全に継続する視点で各選択肢を検討します。

誤嚥予防・服薬支援のポイント
口腔ケア:口腔内細菌の減少は誤嚥性肺炎予防に有効であり、歯磨きを控える指導は誤り
水分補給:とろみのついた経口補水液(ゼリータイプ)は、液体でむせやすい高齢者の水分・電解質補給に適する
内服薬の投与方法:簡易懸濁法(約55℃の温湯で崩壊・懸濁し、とろみを付けて服用)は、嚥下機能が低下した患者への内服薬投与法として広く用いられる
自己判断での中止は不可:ビソプロロールは頻脈・高血圧治療薬であり、自己判断での中止は症状悪化のリスクがある
剤形の特性:リバスチグミンテープは経皮吸収型製剤であり、嚥下機能に依存せず使用できる利点がある。嚥下機能低下患者にあえて内服薬(ドネペジル)へ変更する提案は逆行している
各選択肢の解説
× 1 歯磨きを控えると口腔内細菌が増加し、誤嚥性肺炎のリスクをむしろ高めるため誤り
◯ 2 とろみのついた経口補水液のゼリータイプは、誤嚥リスクの高い患者への水分・電解質補給法として適切
◯ 3 簡易懸濁法(55℃程度の温湯で崩壊・懸濁+とろみ)は、嚥下機能低下患者への内服薬投与法として適切
× 4 むせの増加を理由に息子の自己判断で降圧薬を中止すると、原疾患(高血圧・頻脈)の治療中断につながるため誤り
× 5 経皮吸収型のリバスチグミンテープから内服薬(ドネペジル)へ変更する提案は、嚥下機能低下患者にとって誤嚥リスクを高める逆行した提案であり不適切
引っかけポイント:
・選択肢1:「誤嚥=口腔ケアが悪い」と短絡的に結びつけない。誤嚥性肺炎予防の基本はむしろ口腔ケアの徹底である
・選択肢4:むせの増加=服薬中止という短絡的対応は、原疾患の治療中断という重大なリスクにつながる
・選択肢5:「飲みにくいなら内服薬へ」という発想は、嚥下機能低下患者にはむしろ逆効果。剤形の特性(貼付剤は嚥下機能に依存しない)を理解しているかが問われる
問209の解説を見る

処方2のリバスチグミンは、カルバメート骨格を持つアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬です。カルバメート系薬物は、活性中心のセリン残基(Ser)の水酸基が、薬物のカルバミン酸エステル部分のカルボニル炭素を求核攻撃することで反応が進みます。

この攻撃により、脱離基であるフェノール部分(3-[1-(ジメチルアミノ)エチル]フェニル基)が酵素から離れ、セリンの酸素原子はエチル(メチル)カルバモイル基とエステル結合(カルバミン酸エステル結合)を形成します。すなわち共有結合中間体は、脱離基(芳香環・アミン部分)を含まない、カルバモイル化されたセリン残基のみの構造になります。
各選択肢の解説
◯ 1 Ser-CH₂-O-C(=O)-N(エチル)(メチル)という、脱離基を含まないカルバモイル化セリンの構造であり、カルバメート系阻害薬の共有結合中間体と一致する
× 2 脱離するはずのフェノール部分(脱離基側)がセリンとエーテル結合しており、カルバモイル基が含まれていない。実際の反応では脱離基側は酵素から離れていく
× 3 薬物全体(脱離基+カルバメート部分)がそのままセリンに結合した構造であり、脱離反応が起きていない未反応の基質様の状態を示しており、共有結合中間体ではない
× 4 カルバモイル基と脱離基(アミン部分)が余分な酸素・炭素鎖を介してつながったまま結合しており、実際の分子構造として存在しない誤った連結様式
× 5 脱離基(フェノール・アミン部分)がカルバモイル基とともに残ったまま、別の位置でセリンとエーテル結合しており、脱離反応の結果と矛盾する構造
引っかけポイント:
・選択肢2・3:いずれも脱離するはずの芳香環・アミン部分がセリン側に残った構造になっている。「反応が進むと脱離基は酵素から離れていく」という基本原則を見落とすと選びやすい誤答
・選択肢4:カルバモイル基と脱離基が別の連結様式でつながっており、一見もっともらしいが実際の反応機構には存在しない構造
・選択肢5:選択肢2・3と同様、脱離するはずの部分がセリン側に残ったまま結合しており、共有結合中間体としては誤り
・共有結合中間体=「酵素に共有結合で残る部分(カルバモイル基)のみ」というシンプルな視点で選択肢を絞り込むのがコツ
臨床メモ
あおい
薬剤師 あおい

在宅・外来を問わず、高齢患者さんの「最近むせるようになった」という相談は非常に多いです。むせ=誤嚥性肺炎リスクのサインとして、①口腔ケアの徹底、②食形態・水分のとろみ調整、③服薬方法の見直し(簡易懸濁法・剤形変更)、④自己判断での中止をさせない、の4点をセットで説明できるようにしておくと実務で役立ちます。

リバスチグミンやドネペジルなどのAChE阻害薬は、可逆的阻害薬(ドネペジル:イオン結合等の非共有結合)とカルバメート系の擬似不可逆的阻害薬(リバスチグミン:セリンをカルバモイル化)に分かれます。カルバモイル化された酵素は加水分解でゆっくり元に戻るため、作用時間が比較的長く持続するのが特徴です。β-ラクタム系抗生物質がペニシリン結合タンパク質(PBP)のセリンをアシル化する機構とも似ており、「セリンへの求核攻撃で共有結合が形成される」という考え方は複数科目で繰り返し問われるポイントです。

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