第110回
問214-215
実践問題|実務(214)・物理・化学・生物(215)
ホジキンリンパ腫のABVD療法とダカルバジンのDNAアルキル化機構
問214-215(連問)共通問題文
問214-215 52歳男性。身長167 cm、体重56 kg。最近、右首のくぼみあたりに腫れやしこりがあり、近医を受診した。医師の診察により、頸部リンパ節腫大を認めたため、医師は精査目的で地域医療支援病院の血液内科を紹介した。病変部位の生検の結果、ホジキンリンパ腫と診断された。3日後からABVD療法を開始する予定である。
(ABVD療法)
| 投与量 | 投与時間 | 投与スケジュール | |
| (処方1)ドキソルビシン塩酸塩注射用 | 25 mg/m²/day | 30分 | day 1, 15 |
| (処方2)ブレオマイシン塩酸塩注射用 | 10 mg/m²/day | 30分 | day 1, 15 |
| (処方3)ビンブラスチン硫酸塩注射用 | 6 mg/m²/day | 15分 | day 1, 15 |
| (処方4)ダカルバジン注射用 | 375 mg/m²/day | 60分 | day 1, 15 |
1コースは28日間で、4コースを実施する。なお、4コース実施後にISRT(病巣部放射線照射療法)を施行予定である。
問214(実務)
病棟カンファレンスに参加する際、この治療に関して担当薬剤師が留意する情報として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1
処方1の薬剤は過剰な塩化物イオンにより分解するため、生理食塩液との混和を避けること。
—
2
処方2の薬剤の累積投与量の増加に伴い、肺機能の低下に注意すること。
—
3
処方3の薬剤は非壊死起因性抗がん剤であるため、薬液が血管外へ漏出しても投与を継続すること。
—
4
処方4の薬剤は光に不安定であり、光分解によって血管痛の原因となる物質が生じるため、点滴容器及び経路全体を遮光して投与すること。
—
5
ABVD療法の催吐性リスクは軽度のため、ドンペリドンの嘔気時服用で対処すること。
—
正解です!
解説でABVD療法の各薬剤の注意点を確認しましょう。
不正解です。正解は 2、4 です。
解説でABVD療法の各薬剤の注意点を確認しましょう。
問215
問215(物理・化学・生物)
処方4の薬物はプロドラッグであり、代謝物がDNAと共有結合を形成して抗腫瘍効果を示す。以下の代謝経路に示す化合物のうち、DNA塩基による求核置換反応を受け、薬効を示す活性本体として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1
A
—
2
B
—
3
C
—
4
D
—
5
E
—
正解です!
解説でダカルバジンのアルキル化機構を確認しましょう。
不正解です。正解は D です。
解説でダカルバジンのアルキル化機構を確認しましょう。
問214の解説を見る▼
ABVD療法は、ホジキンリンパ腫の標準的な化学療法レジメンであり、A:ドキソルビシン(アドリアマイシン)、B:ブレオマイシン、V:ビンブラスチン、D:ダカルバジンの4剤で構成されます。それぞれ特徴的な副作用・取扱い上の注意点があり、病棟カンファレンスではこれらを踏まえたモニタリング項目の提案が求められます。
各薬剤の特徴的な注意点
・ドキソルビシン(処方1):過剰な塩化物イオンによる分解が問題となる代表的な薬剤はシスプラチンであり、ドキソルビシンではない。ドキソルビシンは生理食塩液に溶解可能だが、難溶性の凝集体(スタッキング現象)形成を防ぐため速やかに撹拌する必要がある
・ブレオマイシン(処方2):累積投与量の増加に伴い、間質性肺炎・肺線維症などの肺障害の発現率が高まることが知られており、投与を重ねるごとに肺機能のモニタリングが重要となる
・ビンブラスチン(処方3):壊死起因性抗がん剤(ビジカント)に分類され、血管外漏出により水疱・潰瘍・組織壊死などの重篤な皮膚障害を来す可能性がある。血管外漏出が疑われた場合は、直ちに投与を中止し、血管外漏出時の対応(薬液の吸引、局所処置等)を行う必要がある
・ダカルバジン(処方4):光に不安定な薬剤であり、光分解によって生じる分解物(光分解生成物)が投与時の血管痛の原因となることが知られている。そのため、点滴容器だけでなく投与経路(輸液ライン)全体を遮光して投与する必要がある
・ABVD療法の催吐性リスク:ダカルバジンを含むため、ABVD療法全体は高度催吐性リスクに分類され、5-HT₃受容体拮抗薬(パロノセトロン等)、NK₁受容体拮抗薬(ホスアプレピタント等)、デキサメタゾン、オランザピンなどを組み合わせた多剤併用による制吐療法が推奨される。ドンペリドンの頓用のみでの対応は不十分である
・ドキソルビシン(処方1):過剰な塩化物イオンによる分解が問題となる代表的な薬剤はシスプラチンであり、ドキソルビシンではない。ドキソルビシンは生理食塩液に溶解可能だが、難溶性の凝集体(スタッキング現象)形成を防ぐため速やかに撹拌する必要がある
・ブレオマイシン(処方2):累積投与量の増加に伴い、間質性肺炎・肺線維症などの肺障害の発現率が高まることが知られており、投与を重ねるごとに肺機能のモニタリングが重要となる
・ビンブラスチン(処方3):壊死起因性抗がん剤(ビジカント)に分類され、血管外漏出により水疱・潰瘍・組織壊死などの重篤な皮膚障害を来す可能性がある。血管外漏出が疑われた場合は、直ちに投与を中止し、血管外漏出時の対応(薬液の吸引、局所処置等)を行う必要がある
・ダカルバジン(処方4):光に不安定な薬剤であり、光分解によって生じる分解物(光分解生成物)が投与時の血管痛の原因となることが知られている。そのため、点滴容器だけでなく投与経路(輸液ライン)全体を遮光して投与する必要がある
・ABVD療法の催吐性リスク:ダカルバジンを含むため、ABVD療法全体は高度催吐性リスクに分類され、5-HT₃受容体拮抗薬(パロノセトロン等)、NK₁受容体拮抗薬(ホスアプレピタント等)、デキサメタゾン、オランザピンなどを組み合わせた多剤併用による制吐療法が推奨される。ドンペリドンの頓用のみでの対応は不十分である
各選択肢の解説
× 1 過剰な塩化物イオンにより分解し生理食塩液との混和を避けるべき代表的な薬剤はシスプラチンであり、ドキソルビシンには該当しない
◯ 2 ブレオマイシンは累積投与量の増加に伴い肺障害(間質性肺炎・肺線維症)のリスクが高まるため、肺機能のモニタリングが重要
× 3 ビンブラスチンは壊死起因性抗がん剤であり、血管外漏出時は直ちに投与を中止する必要がある。「投与を継続する」は誤り
◯ 4 ダカルバジンは光に不安定で、光分解生成物が血管痛の原因となるため、点滴容器及び経路全体の遮光が必要
× 5 ABVD療法(ダカルバジン含有)は高度催吐性リスクに分類され、多剤併用による制吐療法が必要。ドンペリドン頓用のみでは不十分
× 1 過剰な塩化物イオンにより分解し生理食塩液との混和を避けるべき代表的な薬剤はシスプラチンであり、ドキソルビシンには該当しない
◯ 2 ブレオマイシンは累積投与量の増加に伴い肺障害(間質性肺炎・肺線維症)のリスクが高まるため、肺機能のモニタリングが重要
× 3 ビンブラスチンは壊死起因性抗がん剤であり、血管外漏出時は直ちに投与を中止する必要がある。「投与を継続する」は誤り
◯ 4 ダカルバジンは光に不安定で、光分解生成物が血管痛の原因となるため、点滴容器及び経路全体の遮光が必要
× 5 ABVD療法(ダカルバジン含有)は高度催吐性リスクに分類され、多剤併用による制吐療法が必要。ドンペリドン頓用のみでは不十分
引っかけポイント:
・選択肢1:「過剰な塩化物イオンで分解=生理食塩液を避ける」という知識自体は正しいが、対象薬剤がシスプラチンとすり替えられている典型的な引っかけ
・選択肢3:「非壊死起因性」という記述が真逆。ビンブラスチンはビンカアルカロイド系の代表的な壊死起因性(ビジカント)抗がん剤である
・選択肢5:ダカルバジンを含むレジメンは軽度ではなく高度催吐性リスクに分類される。「軽度だからドンペリドン頓用で十分」という油断を誘う選択肢
・選択肢1:「過剰な塩化物イオンで分解=生理食塩液を避ける」という知識自体は正しいが、対象薬剤がシスプラチンとすり替えられている典型的な引っかけ
・選択肢3:「非壊死起因性」という記述が真逆。ビンブラスチンはビンカアルカロイド系の代表的な壊死起因性(ビジカント)抗がん剤である
・選択肢5:ダカルバジンを含むレジメンは軽度ではなく高度催吐性リスクに分類される。「軽度だからドンペリドン頓用で十分」という油断を誘う選択肢
問215の解説を見る▼
処方4のダカルバジンは、それ自体には強いDNAアルキル化能を持たないプロドラッグであり、体内で代謝的に活性化されて初めて抗腫瘍効果(DNAアルキル化)を発揮します。
ダカルバジンの活性化経路
・肝臓の薬物代謝酵素(主にCYP1A1/1A2、CYP2E1)による生体内酸化(N-脱メチル化の初期段階)を受け、トリアゼン構造のN-メチル基がヒドロキシメチル化されたAが生成する
・Aは不安定なため、自然にホルムアルデヒド(B)を脱離し、C(5-(3-メチルトリアゼン-1-イル)イミダゾール-4-カルボキサミド、通称MTIC)が生成する
・Cはさらに自発的に分解し、D(メチルジアゾニウムイオン、H₃C-N≡N⁺)とE(5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミド、AIC)の2つに分かれる
・このうちD(メチルジアゾニウムイオン)が、DNA塩基(主にグアニンのO⁶位やN7位)による求核攻撃を受け、窒素ガス(N₂)を脱離しながらメチル基をDNAへ転移する(SN1/SN2型の求核置換反応)。これによりDNAがメチル化され、細胞毒性・抗腫瘍効果が発揮される
・一方、E(AIC)はDが脱離した後に残る非反応性の副生成物であり、体内のプリン代謝経路の中間体としても知られ、最終的に尿中へ排泄される。DNAとの反応性はない
・肝臓の薬物代謝酵素(主にCYP1A1/1A2、CYP2E1)による生体内酸化(N-脱メチル化の初期段階)を受け、トリアゼン構造のN-メチル基がヒドロキシメチル化されたAが生成する
・Aは不安定なため、自然にホルムアルデヒド(B)を脱離し、C(5-(3-メチルトリアゼン-1-イル)イミダゾール-4-カルボキサミド、通称MTIC)が生成する
・Cはさらに自発的に分解し、D(メチルジアゾニウムイオン、H₃C-N≡N⁺)とE(5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミド、AIC)の2つに分かれる
・このうちD(メチルジアゾニウムイオン)が、DNA塩基(主にグアニンのO⁶位やN7位)による求核攻撃を受け、窒素ガス(N₂)を脱離しながらメチル基をDNAへ転移する(SN1/SN2型の求核置換反応)。これによりDNAがメチル化され、細胞毒性・抗腫瘍効果が発揮される
・一方、E(AIC)はDが脱離した後に残る非反応性の副生成物であり、体内のプリン代謝経路の中間体としても知られ、最終的に尿中へ排泄される。DNAとの反応性はない
各選択肢の解説
× 1 A(N-ヒドロキシメチル体):まだアルキル化能を持たない中間代謝物であり、DNAと直接反応する活性本体ではない
× 2 B(ホルムアルデヒド):AからCが生成する際に脱離する副産物であり、DNAアルキル化の主体ではない
× 3 C(MTIC):DとEに分解する前段階の中間体であり、それ自体がDNA塩基から求核攻撃を直接受ける活性本体ではない
◯ 4 D(メチルジアゾニウムイオン):DNA塩基の求核攻撃を受けて窒素ガスを脱離し、メチル基をDNAに転移する、実際のDNAアルキル化を担う活性本体
× 5 E(AIC):Dが脱離した後に残る非反応性の副生成物であり、DNAとは反応しない
× 1 A(N-ヒドロキシメチル体):まだアルキル化能を持たない中間代謝物であり、DNAと直接反応する活性本体ではない
× 2 B(ホルムアルデヒド):AからCが生成する際に脱離する副産物であり、DNAアルキル化の主体ではない
× 3 C(MTIC):DとEに分解する前段階の中間体であり、それ自体がDNA塩基から求核攻撃を直接受ける活性本体ではない
◯ 4 D(メチルジアゾニウムイオン):DNA塩基の求核攻撃を受けて窒素ガスを脱離し、メチル基をDNAに転移する、実際のDNAアルキル化を担う活性本体
× 5 E(AIC):Dが脱離した後に残る非反応性の副生成物であり、DNAとは反応しない
引っかけポイント:
・選択肢3:Dが生成する直前の中間体であるため紛らわしいが、実際にDNA塩基の求核攻撃を受けるのはCがさらに分解してできるDである
・選択肢5:Dと対になって同時に生成するため紛らわしいが、Eは反応性を失った「抜け殻」であり、DNAとは反応しない。「Dが持ち去ったメチル基がDNAをアルキル化し、Eは体内に残される」という反応の方向性を正しく理解しているかが問われる
・選択肢3:Dが生成する直前の中間体であるため紛らわしいが、実際にDNA塩基の求核攻撃を受けるのはCがさらに分解してできるDである
・選択肢5:Dと対になって同時に生成するため紛らわしいが、Eは反応性を失った「抜け殻」であり、DNAとは反応しない。「Dが持ち去ったメチル基がDNAをアルキル化し、Eは体内に残される」という反応の方向性を正しく理解しているかが問われる
臨床メモ▼


薬剤師 あおい
ABVD療法は「A(アドリアマイシン=ドキソルビシン)・B(ブレオマイシン)・V(ビンブラスチン)・D(ダカルバジン)」のイニシャルで覚えるのが定番です。病棟カンファレンスでは、薬剤師は各薬剤の累積投与量(ブレオマイシンの肺毒性、ドキソルビシンの心毒性など)を継続的にモニタリングし、コースを重ねるごとに投与継続の可否を医師・看護師と共有する役割を担います。
ダカルバジンの光分解物による血管痛は実務でも頻繁に問題となるため、点滴セット全体(ボトル・チューブ)を遮光カバーで覆うといった具体的な対策まで説明できると、病棟でも信頼される薬剤師になれます。










