第111回
問98
理論問題|物理
錯体生成反応・配位結合・逐次安定度定数
問98 この錯体生成反応に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 mol の金属イオン M と n mol の配位子 L は次のように反応して錯体 MLn を生成する。最終反応生成物の MLn は L と反応しないものとし、また、K は逐次安定度定数を表すものとすると、この錯体生成反応に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。ただし、M、L 及び ML のモル濃度はそれぞれ [M]、[L] 及び [ML] と表すものとする。
| M | + | L | $\overset{K_1}{\rightleftharpoons}$ | ML |
| ML | + | L | $\overset{K_2}{\rightleftharpoons}$ | ML2 |
| ⋮ | ||||
| MLn−1 | + | L | $\overset{K_n}{\rightleftharpoons}$ | MLn |
1
M と L との間で形成される配位結合は、共有結合の一種である。
—
2
$K_1$ は、$K_1 = \dfrac{[\text{M}][\text{L}]}{[\text{ML}]}$ によって表される。
—
3
全安定度定数 $\beta_n$ は、$\beta_n = K_1 + K_2 + \cdots + K_n$ によって表される。
—
4
M はルイス塩基、L はルイス酸である。
—
5
最終反応生成物の MLn は、L が単座配位子であるより、多座配位子である方が錯体としての安定度が高い。
—
正解です!
配位結合は共有結合の一種、多座配位子によるキレート効果で安定度が増します。
不正解です。正解は 1 と 5 です。
解説で各選択肢を確認しましょう。
解説を見る
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配位結合・錯体生成のポイント
配位結合とは、一方の原子(配位子)が孤立電子対を提供し、もう一方の原子(金属イオン)が空軌道でそれを受け取ることで形成される共有結合の一種。金属イオンはルイス酸(電子対受容体)、配位子はルイス塩基(電子対供与体)として働く。
配位結合とは、一方の原子(配位子)が孤立電子対を提供し、もう一方の原子(金属イオン)が空軌道でそれを受け取ることで形成される共有結合の一種。金属イオンはルイス酸(電子対受容体)、配位子はルイス塩基(電子対供与体)として働く。
【各選択肢の解説】
| 選択肢 | 記述 | 判定・理由 |
|---|---|---|
| 1 ★ | 配位結合は共有結合の一種である | ◯ 配位結合は、配位子の孤立電子対を一方的に提供して形成されるが、形成後は通常の共有結合と同じ。「共有結合の一種」として分類される |
| 2 | $K_1 = \dfrac{[\text{M}][\text{L}]}{[\text{ML}]}$ |
× 設問の式は不安定度定数(解離定数)の式であり、逐次安定度定数 $K_1$ ではない。 【逐次安定度定数】:錯体が生成する方向の平衡定数。値が大きいほど錯体が安定に生成する。 $K_1 = \dfrac{[\text{ML}]}{[\text{M}][\text{L}]}$ 【不安定度定数(解離定数)】:錯体が解離する方向の平衡定数。逐次安定度定数の逆数。値が小さいほど錯体が安定。 $K_{\text{不安定}} = \dfrac{[\text{M}][\text{L}]}{[\text{ML}]} = \dfrac{1}{K_1}$ ※ 設問の式は分子と分母が逆になっており、不安定度定数の式になっている |
| 3 | $\beta_n = K_1 + K_2 + \cdots + K_n$ | × 全安定度定数(累積安定度定数)は積で表される。 $\beta_n = K_1 \times K_2 \times \cdots \times K_n$ ※和ではなく積であることに注意 |
| 4 | M はルイス塩基、L はルイス酸 |
× 逆。正しくは M がルイス酸、L がルイス塩基。 【なぜ金属イオン M がルイス酸とわかるか】 金属イオンは正電荷を持ち、電子を失った状態(例:Cu²⁺、Fe³⁺)。最外殻に空の軌道(空軌道)が存在するため、電子対を受け取ることができる。 ルイス酸=「電子対を受け取る(受容体)」→ 金属イオン M 【なぜ配位子 L がルイス塩基とわかるか】 NH₃、H₂O、Cl⁻ などの配位子は、孤立電子対(非共有電子対)を持つ。この孤立電子対を金属イオンの空軌道に提供することで配位結合を形成する。 ルイス塩基=「電子対を提供する(供与体)」→ 配位子 L |
| 5 ★ | 多座配位子の方が安定度が高い(キレート効果) |
◯ キレート効果により、多座配位子は単座配位子より錯体の安定度が著しく高くなる。 【なぜエントロピー増大で安定度が上がるか】 ※ ここで言う「安定度が高い」とは、生成した錯体が壊れにくい(熱力学的安定性)のことを指す。「反応が自発的に進む」とは「生成物の方がエネルギー的に低い状態にある」ことを意味し、生成物(錯体)が安定であることを示す。 熱力学的安定性は自由エネルギー変化 $\Delta G$ で決まる: $\Delta G = \Delta H – T\Delta S$ $\Delta G$ が負(小さい)ほど生成物(錯体)の状態がエネルギー的に低く、錯体として安定で壊れにくい。 【ポイントは「水和水の放出数」にある】 金属イオンは溶液中で裸ではなく、通常6個の水分子が周りに配位した水和状態で存在する。配位子はこの水分子を追い出しながら結合する。 単座配位子(例:NH₃)の場合 反応前:[M(H₂O)₆] + 6個のNH₃ = 計7粒子 反応後:[M(NH₃)₆] + 6個のH₂O = 計7粒子 → 粒子数の変化なし。エントロピー増大はほとんどない。 多座配位子(例:EDTA=6座配位子)の場合 反応前:[M(H₂O)₆] + 1個のEDTA = 計2粒子 反応後:[M(EDTA)] + 6個のH₂O = 計7粒子 → 粒子数が2個から7個へ、5個増加。 EDTAは「1分子が入るだけで、6分子の水を一度に解放する」。拘束される粒子は1つだが、解放される粒子は6つ。差し引きで自由に動ける粒子が大幅に増えるため、エントロピーが大きく増大(ΔS≫0)し、$-T\Delta S$ が負に大きくなる。結果として $\Delta G$ がより負となり、錯体が安定化する。 |
【逐次安定度定数と全安定度定数の整理】
逐次安定度定数(各段階の平衡定数)
$K_1 = \dfrac{[\text{ML}]}{[\text{M}][\text{L}]}$ (M + L ⇌ ML)
$K_2 = \dfrac{[\text{ML}_2]}{[\text{ML}][\text{L}]}$ (ML + L ⇌ ML₂)
$K_n = \dfrac{[\text{ML}_n]}{[\text{ML}_{n-1}][\text{L}]}$
全安定度定数(累積安定度定数)βn
M + nL ⇌ MLn の総合的な平衡定数
$\beta_n = K_1 \times K_2 \times \cdots \times K_n = \dfrac{[\text{ML}_n]}{[\text{M}][\text{L}]^n}$
積(×)であり、和(+)ではない
$K_1 = \dfrac{[\text{ML}]}{[\text{M}][\text{L}]}$ (M + L ⇌ ML)
$K_2 = \dfrac{[\text{ML}_2]}{[\text{ML}][\text{L}]}$ (ML + L ⇌ ML₂)
$K_n = \dfrac{[\text{ML}_n]}{[\text{ML}_{n-1}][\text{L}]}$
全安定度定数(累積安定度定数)βn
M + nL ⇌ MLn の総合的な平衡定数
$\beta_n = K_1 \times K_2 \times \cdots \times K_n = \dfrac{[\text{ML}_n]}{[\text{M}][\text{L}]^n}$
積(×)であり、和(+)ではない
⚠️ 引っかけポイント:
・選択肢2:K₁の分子と分母が逆([M][L]/[ML] は不安定度定数)
・選択肢3:βn は和ではなく積。K₁+K₂+…は無意味な式
・選択肢4:金属イオン(M)とルイス酸・塩基の割り当てが逆になりやすい
・選択肢2:K₁の分子と分母が逆([M][L]/[ML] は不安定度定数)
・選択肢3:βn は和ではなく積。K₁+K₂+…は無意味な式
・選択肢4:金属イオン(M)とルイス酸・塩基の割り当てが逆になりやすい
臨床メモ
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薬剤師 あおい
キレート効果は薬学でとても重要な概念です。たとえば、エデト酸(EDTA)は6座配位子として金属イオンと非常に安定なキレートを形成するため、重金属中毒(鉛・水銀など)の解毒剤として使用されます。
また、点滴液の安定化剤や防腐補助剤としてもEDTAは広く使われています。「なぜEDTAがこんなに幅広く使えるのか」という問いへの答えが、まさにこのキレート効果の強力な安定化作用にあります。
さらに、ヘモグロビン中のヘム鉄(Fe²⁺)もポルフィリン環(4座配位子)によるキレート錯体です。生体内の金属酵素の活性中心にも錯体形成が深く関わっています。












