58歳男性。身長172 cm、体重73 kg。2型糖尿病で10年前から総合病院を受診し、現在は処方1〜4の薬剤を使用している。
(処方1)
エンパグリフロジン錠 10 mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 56日分
(処方2)
メトホルミン塩酸塩錠 500 mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 56日分
(処方3)
インスリングラルギン(遺伝子組換え)注射液(300単位/1キット)6キット
1回25単位 1日1回 朝食前 皮下注射(自己注射)
(処方4)
インスリンリスプロ(遺伝子組換え)注射液(300単位/1キット)5キット
1回 朝8単位 昼4単位 夕6単位 1日3回 朝昼夕食直前 皮下注射(自己注射)
12月初旬の受診時の検査結果は以下のとおりだった。
(12月初旬の検査結果)
空腹時血糖 127 mg/dL、HbA1c 7.0%、尿糖(4+)、尿タンパク(−)、
尿ケトン体(−)、血清クレアチニン 0.7 mg/dL、eGFR 78 mL/min/1.73 m2
8週間経過した1月末、年末年始の食生活の乱れから空腹時血糖177 mg/dL、HbA1c 7.8%になった。医師からは「食事内容に気をつけ、薬をきちんと使用すること。次回受診時に改善が見られなければ薬を増やす」と言われた。さらに2週間経った1月末、嘔吐と下痢のため近医を受診して胃腸炎と診断され、処方5及び処方6の薬を持って薬局を訪れた。
(処方5)
酪酸菌配合剤 1回1錠(1日3錠) 1日3回 朝昼夕食後 7日分
(処方6)
ドンペリドン錠 10 mg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 朝昼夕食前 7日分
薬剤師に「昨夜から食事が全くなかったが、今朝は家にあったプリンだけ食べられた。甘いものを食べたので、糖尿病の薬はきちんと使用した。」と伝えた。
(いつもの食事摂取ができるようになった日の血糖自己測定)
朝食前 112 mg/dL、朝食後 252 mg/dL、
昼食前 146 mg/dL、昼食後 170 mg/dL、
夕食前 105 mg/dL、夕食後 163 mg/dL、就寝前 127 mg/dL
(総合病院受診時の検査結果)
空腹時血糖 180 mg/dL、HbA1c 8.0%、尿糖(4+)、
尿タンパク(−)、尿ケトン体(−)
【問294】シックデイの対応
①水分・炭水化物(糖質)を少量でも摂取する ②インスリンは原則継続(基礎インスリンは必ず継続)
③メトホルミン・SGLT2阻害薬は休薬 ④尿ケトン体・血糖を頻回にモニタリング
| 選択肢 | 指導内容 | 判定・解説 |
|---|---|---|
| 1 | エンパグリフロジンを続ける | × SGLT2阻害薬はシックデイに休薬する。脱水状態で継続すると正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス(euDKA)を誘発するリスクがある。食事が取れない状況でも尿糖排泄が続くため危険。 |
| 2 ★ | メトホルミンを服用しない | ◯ シックデイでは脱水・腎血流低下が起きやすく、メトホルミンの蓄積により乳酸アシドーシスのリスクが高まる。嘔吐・下痢など消化器症状があるシックデイは必ず休薬する。 |
| 3 | インスリンをどちらも注射しない | × インスリン(特に基礎インスリン:グラルギン)はシックデイでも原則継続。食事が取れなくても基礎分泌の補充は必要であり、中止するとケトアシドーシスのリスクが高まる。追加インスリン(リスプロ)は食事量に応じて減量調整する。 |
| 4 ★ | 尿ケトン体を調べる | ◯ シックデイでは絶食・インスリン不足によりケトン体が産生されやすい。尿ケトン体の自己測定は糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の早期発見に重要。陽性であれば速やかに医療機関に連絡する。 |
| 5 | 炭水化物を控える | × シックデイでは低血糖・ケトアシドーシス予防のため、食べられるものから炭水化物(糖質)を摂取することが推奨される。おかゆ・ジュース・アイスなど消化しやすいものでよい。炭水化物を控えることは誤り。 |
・選択肢1:「薬はきちんと使用した」と言っているが、SGLT2阻害薬のシックデイ休薬は重要。euDKAは血糖が正常〜軽度上昇でも起こりうる。
・選択肢3:インスリンを「どちらも」止めるのは誤り。基礎インスリン(グラルギン)は継続。
・選択肢5:「甘いものを食べた=炭水化物を摂らない」という逆の誤解に注意。シックデイこそ糖質補給が重要。
【問295】血糖パターンからの治療選択
朝食前 112 → 朝食後 252(上昇幅+140) ※最大の問題点
昼食前 146 → 昼食後 170(上昇幅+24)
夕食前 105 → 夕食後 163(上昇幅+58)
就寝前 127
→ 朝食後の血糖上昇が突出して大きい。朝食直前のリスプロ(8単位)の増量が適切。
→ グラルギン(基礎)は空腹時血糖180 mg/dLと高いが、朝食前112は良好であり増量根拠は弱い。
| 選択肢 | 治療内容 | 判定・解説 |
|---|---|---|
| 1 ★ | エンパグリフロジンを継続 | ◯ シックデイが解消し食事摂取が安定しているため、SGLT2阻害薬の再開・継続は適切。血糖・HbA1cのコントロール改善にも寄与する。eGFR 78 mL/min(前回値)で投与可能域。 |
| 2 | メトホルミンを減量 | × eGFR 78(前回値)で腎機能は正常範囲内。減量の根拠なし。メトホルミンは血糖コントロールの観点からも有用であり、シックデイ回復後は通常量の継続が適切。 |
| 3 | インスリングラルギンを増量 | × グラルギンは基礎インスリンであり、空腹時血糖値に反映される。朝食前血糖112 mg/dLは良好であり、増量すると低血糖リスクが高まる。増量の根拠なし。 |
| 4 ★ | 朝食直前のリスプロを増量 | ◯ 朝食後血糖252 mg/dLと最も高く、朝食前112からの上昇幅(+140 mg/dL)が他の食後に比べ突出して大きい。朝食直前の追加インスリン(リスプロ8単位)の増量が最も適切な対応。 |
| 5 | 夕食直前のリスプロを増量 | × 夕食前105→夕食後163(上昇幅+58 mg/dL)であり、朝食後の上昇幅+140に比べ問題は軽度。夕食直前リスプロ(6単位)の増量より朝食時の対応が優先される。 |
・選択肢3:「空腹時血糖180→グラルギン増量」と反射的に選びやすい。しかし朝食前血糖は112と良好であり、空腹時高血糖はシックデイ・食生活乱れの影響を含む。
・選択肢5:夕食後も高いが上昇幅は小さく、朝食後の突出した上昇が優先課題。血糖パターンを食前後の「差」で評価することが重要。


SGLT2阻害薬のシックデイ「正常血糖DKA」に要注意:SGLT2阻害薬は尿糖排泄が続くため、シックデイ中に脱水・絶食が重なると血糖が正常〜軽度上昇のまま糖尿病性ケトアシドーシス(euDKA)を発症することがあります。「血糖が高くないから大丈夫」と思って受診が遅れるケースがあるため、シックデイには必ず休薬し、尿ケトン体を測定するよう患者さんに事前に指導しておきましょう。
シックデイの「食べられるものを食べる」指導:糖尿病患者は「甘いものは食べてはいけない」という意識が強く、シックデイ中も炭水化物を避けてしまうことがあります。しかしシックデイこそ低血糖・DKA予防のため糖質補給が必要です。「おかゆ・スポーツドリンク・アイスクリームでもよいので食べてください」という具体的な指導が患者さんの安心につながります。
血糖パターン解析のコツ:食前・食後の血糖値を「差(上昇幅)」で見ることが大切です。食前が低くても食後に急上昇している場合は追加インスリン不足、食前から高い場合は基礎インスリン不足と判断します。本症例では朝食後の上昇幅が突出しており、朝の追加インスリン(リスプロ)の増量が論理的な選択です。










