78歳女性。卵巣がんStage Ⅳの腹腔内転移により再発し、化学療法を実施していたが、症状悪化に伴い緩和医療へ方針変更となった。大腸への浸潤により腹痛が出現し、緩和ケアチームが介入した。以下の処方で痛みのコントロールは不良で、経口摂取が徐々に困難となり、経鼻胃管の挿入を計画している。
| (処方) |
オキシコンチンTR錠20 mg(注)1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 10日分
|
(注:オキシコドン塩酸塩水和物徐放錠(乱用防止用製剤))
そのため、フェンタニル貼付剤へのオピオイドスイッチングを検討しており、主治医から病棟担当薬剤師へスイッチングの相談があった。バイタルサインは以下のとおりであった。
| (バイタルサイン)項目 | 入院30日目 |
|---|---|
| 血圧(mmHg) | 110/70 |
| 体温(℃) | 36.2 |
| 脈拍(拍/分) | 60 |
| 呼吸(回/分) | 16 |
【問343】経口オキシコドン徐放錠からフェンタニル貼付剤へのスイッチング
| 選択肢 | 記述 | 判定・解説 |
|---|---|---|
| 1 | 貼付後速やかに血中濃度上昇・安定した鎮痛効果 | × フェンタニル貼付剤は、貼付後の血中濃度上昇が緩徐であり、効果発現までに約12〜14時間を要する。「速やかに血中濃度が上昇する」という記述は、本剤の薬物動態上の特性と矛盾する。 |
| 2 ★ | オキシコドン徐放錠の最終投与時から貼付開始 | ◯ オキシコドン徐放錠(1日2回製剤)からフェンタニル貼付剤への切り替えでは、徐放錠の最終内服のタイミングと同時にフェンタニル貼付剤を開始するのが一般的なタイミングとされる。フェンタニル貼付剤の効果発現に時間がかかる一方、オキシコドン徐放錠の血中濃度はその後も一定時間持続するため、両者の血中濃度推移を重ねることで鎮痛効果の切れ目(オピオイドギャップ)を防ぐことができる。 |
| 3 | バイタルサインからフェンタニル吸収率増加と判断 | × フェンタニル貼付剤は貼付部位の温度上昇(発熱等)により吸収量が増加することが知られている。しかし本症例の体温は36.2℃と正常範囲であり、血圧・脈拍・呼吸数もいずれも正常範囲内である。提示されたバイタルサインから「吸収率が増加する」と判断できる根拠はない。 |
| 4 | レスキューにフェンタニル舌下錠 | × フェンタニル舌下錠は経口腔粘膜からの吸収を前提とした製剤であり、本症例のように経口摂取が困難で経鼻胃管の挿入を計画している患者には適していない。また、舌下錠は口腔粘膜から吸収されることで速効性を発揮する製剤であるため、粉砕して経鼻胃管(チューブ)から注入しても、消化管吸収・肝初回通過効果を強く受けて効果が著しく減弱し、十分なレスキュー効果は得られない。レスキュー薬の選択は、患者の嚥下・経口摂取状況に応じた投与経路を考慮する必要があり、本症例では経口・口腔粘膜以外の経路(注射剤等)を検討すべき場面。 |
| 5 | 疼痛部位への貼付がより効果的 | × フェンタニル貼付剤は、皮膚から吸収されたフェンタニルが全身循環を介して中枢に作用する全身作用型の製剤であり、局所への直接作用を期待するものではない。貼付部位は疼痛部位とは無関係に、体毛が少なく皮膚状態の良い部位(上腕・胸部・背部等)から選択すればよく、「疼痛部位に貼付するとより効果的」という説明は誤り。 |
・選択肢1:「貼付剤=すぐ効く」というイメージに注意。フェンタニル貼付剤は効果発現が遅い製剤であり、急性疼痛のレスキューには使えない。
・選択肢3:「発熱で吸収率が増加する」という知識自体は正しいが、本症例の体温は正常であり、提示されたデータから結論を導けるかどうかを問う設問。知識の有無だけでなく、データの読み取りが求められる。
・選択肢4・5:いずれも「製剤の特性」と「投与経路・部位選択の考え方」を取り違えた誤り選択肢。「全身作用 vs 局所作用」「経口摂取可否に応じた製剤選択」という視点で整理する。


オピオイドスイッチングのタイミングを「重ね塗り」で考える:フェンタニル貼付剤は効果発現に時間がかかるため、切り替え前のオピオイドの効果が切れる前に、新しい薬の効果が立ち上がっている状態を作ることが重要です。1日2回の徐放錠(オキシコンチン等)であれば「最終内服と同時(次の内服予定時刻)」に貼付を開始し、1日1回の徐放錠(ナルサス等)であれば「最終内服の24時間後(次の内服予定時刻)」に貼付を開始するなど、切り替え元の薬剤の血中濃度持続時間(投与間隔)に応じてタイミングを合わせます。1日1回製剤は24時間にわたって血中濃度が維持されるよう設計されているため、これより早く貼付を開始すると、前の薬がまだ十分に残っている状態にフェンタニルの立ち上がりが重なり、過量投与(呼吸抑制等)のリスクが高まります。
フェンタニル貼付剤の吸収に影響する要因:①発熱・外部からの加温(吸収増加→過量投与のリスク)、②貼付部位の皮膚状態(発汗・落屑・炎症があると吸収が不安定)。本症例のようにバイタルサインが提示された場合は、体温に着目して「発熱がないか」を確認する習慣をつけましょう。
経口摂取困難な患者のレスキュー選択:経鼻胃管挿入を検討するような経口摂取困難な患者では、口腔粘膜吸収を前提とした製剤(フェンタニル舌下錠・バッカル錠)や経口製剤(オキシコドン速放カプセル等)は使いにくくなります。レスキューには注射剤(モルヒネ・フェンタニル等の皮下注・静注)への変更を検討する必要があり、「定期薬の変更」と「レスキュー薬の変更」をセットで見直す視点が重要です。










