第110回
問240-241
実践問題|実務(240)・衛生(241)
小児の鉛中毒の解毒薬とヘム生合成経路への影響
問240-241(連問)共通問題文
問240-241 2歳8ケ月女児。1週間前から腹痛を訴えることがあり、今朝になって、嘔吐したため、近医を受診した。母親からの聞き取りでは、日頃から鉛を含む金属製アクセサリーを舐める癖があり、誤飲したおそれがあるとのことであった。レントゲン検査では異物は見当たらなかった。尿中のδ-アミノレブリン酸濃度は10 mg/Lと高値であった。また、血液検査では有核赤血球数の増加がみられ、赤血球遊離プロトポルフィリン濃度は180 μg/dL(基準値30〜86 μg/dL)、原子吸光度計で測定した血中鉛濃度は75 μg/dLであった。
問240(実務)
薬剤師が医師に提案する解毒薬として適切なのはどれか。2つ選べ。
1
EDTAカルシウム二ナトリウム
—
2
ホメピゾール
—
3
メチレンブルー
—
4
亜硝酸アミル
—
5
ジメルカプロール(BAL)
—
正解です!
解説で鉛中毒に使用するキレート薬を確認しましょう。
不正解です。正解は 1、5 です。
解説で鉛中毒に使用するキレート薬を確認しましょう。
問241
問241(衛生)
ヘムの生合成経路を表した下図中の1〜5のうち、この女児の中毒原因物質によって抑制される反応はどれか。2つ選べ。


1
反応1(δ-アミノレブリン酸合成酵素による反応)
—
2
反応2(δ-アミノレブリン酸脱水酵素による反応)
—
3
反応3(ポルフォビリノーゲンからヒドロキシメチルビランへの反応)
—
4
反応4(プロトポルフィリノーゲン酸化酵素による反応)
—
5
反応5(フェロケラターゼによる反応)
—
正解です!
解説で鉛が抑制する2つの酵素反応を確認しましょう。
不正解です。正解は 2、5 です。
解説で鉛が抑制する2つの酵素反応を確認しましょう。
問240の解説を見る▼
本症例は、鉛を含む金属製アクセサリーの誤飲・舐摂による鉛中毒が疑われる小児例です。尿中δ-アミノレブリン酸高値、赤血球遊離プロトポルフィリン高値、有核赤血球増加、血中鉛濃度上昇はいずれも鉛中毒に典型的な所見です。
鉛中毒の解毒薬(キレート療法)のポイント
・EDTAカルシウム二ナトリウム(カルシウム二ナトリウムエデト酸):鉛と安定なキレートを形成し尿中排泄を促進する、鉛中毒治療の代表的なキレート薬
・ジメルカプロール(BAL、英国抗ルイサイト):SH基を持つキレート薬で、鉛・水銀・ヒ素などの重金属中毒に用いられる
・ホメピゾールはアルコール脱水素酵素阻害薬でメタノール・エチレングリコール中毒の解毒薬、メチレンブルーはメトヘモグロビン血症の治療薬、亜硝酸アミルはシアン化物中毒の解毒薬であり、いずれも鉛中毒には無関係
・EDTAカルシウム二ナトリウム(カルシウム二ナトリウムエデト酸):鉛と安定なキレートを形成し尿中排泄を促進する、鉛中毒治療の代表的なキレート薬
・ジメルカプロール(BAL、英国抗ルイサイト):SH基を持つキレート薬で、鉛・水銀・ヒ素などの重金属中毒に用いられる
・ホメピゾールはアルコール脱水素酵素阻害薬でメタノール・エチレングリコール中毒の解毒薬、メチレンブルーはメトヘモグロビン血症の治療薬、亜硝酸アミルはシアン化物中毒の解毒薬であり、いずれも鉛中毒には無関係
各選択肢の解説
◯ 1 EDTAカルシウム二ナトリウムは鉛とキレートを形成し排泄を促進する、鉛中毒治療の代表的な解毒薬
× 2 ホメピゾールはメタノール・エチレングリコール中毒に用いる解毒薬であり、鉛中毒には無関係
× 3 メチレンブルーはメトヘモグロビン血症の治療薬であり、鉛中毒には無関係
× 4 亜硝酸アミルはシアン化物中毒の解毒薬であり、鉛中毒には無関係
◯ 5 ジメルカプロール(BAL)は重金属(鉛・水銀・ヒ素等)中毒に用いられるキレート薬であり、鉛中毒治療の選択肢となる
◯ 1 EDTAカルシウム二ナトリウムは鉛とキレートを形成し排泄を促進する、鉛中毒治療の代表的な解毒薬
× 2 ホメピゾールはメタノール・エチレングリコール中毒に用いる解毒薬であり、鉛中毒には無関係
× 3 メチレンブルーはメトヘモグロビン血症の治療薬であり、鉛中毒には無関係
× 4 亜硝酸アミルはシアン化物中毒の解毒薬であり、鉛中毒には無関係
◯ 5 ジメルカプロール(BAL)は重金属(鉛・水銀・ヒ素等)中毒に用いられるキレート薬であり、鉛中毒治療の選択肢となる
引っかけポイント:
・選択肢2〜4:いずれも「解毒薬」として名前は聞いたことがあるものの、対象となる中毒物質(メタノール・エチレングリコール、メトヘモグロビン血症、シアン化物)が異なる点を正確に区別できるかが問われる
・「解毒薬名」と「対象となる中毒物質」をペアで覚えていないと、名前だけで正誤を判断してしまい誤答しやすい
・選択肢2〜4:いずれも「解毒薬」として名前は聞いたことがあるものの、対象となる中毒物質(メタノール・エチレングリコール、メトヘモグロビン血症、シアン化物)が異なる点を正確に区別できるかが問われる
・「解毒薬名」と「対象となる中毒物質」をペアで覚えていないと、名前だけで正誤を判断してしまい誤答しやすい
問241の解説を見る▼
鉛は、ヘムの生合成経路のうち2つの酵素反応を特異的に阻害することが知られており、この阻害によって生じる代謝産物の蓄積が、本症例の検査所見(尿中δ-アミノレブリン酸高値、赤血球遊離プロトポルフィリン高値)として現れています。
鉛が阻害するヘム生合成酵素
・反応2:δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD、ポルフォビリノーゲン合成酵素):δ-アミノレブリン酸からポルフォビリノーゲンへの変換を触媒する酵素で、鉛により阻害される。この阻害により基質であるδ-アミノレブリン酸が蓄積し、尿中δ-アミノレブリン酸濃度の上昇として検出される
・反応5:フェロケラターゼ(ヘム合成酵素):プロトポルフィリンIXに2価鉄(Fe²⁺)を挿入してヘムを生成する反応を触媒する酵素で、鉛により阻害される。この阻害によりプロトポルフィリンIXが赤血球内に蓄積し、赤血球遊離プロトポルフィリン濃度の上昇として検出される
・反応1(ALA合成酵素)、反応3(ポルフォビリノーゲンからの変換)、反応4(プロトポルフィリノーゲン酸化酵素)は、鉛による直接的な阻害を受ける代表的な反応としては知られていない
・反応2:δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD、ポルフォビリノーゲン合成酵素):δ-アミノレブリン酸からポルフォビリノーゲンへの変換を触媒する酵素で、鉛により阻害される。この阻害により基質であるδ-アミノレブリン酸が蓄積し、尿中δ-アミノレブリン酸濃度の上昇として検出される
・反応5:フェロケラターゼ(ヘム合成酵素):プロトポルフィリンIXに2価鉄(Fe²⁺)を挿入してヘムを生成する反応を触媒する酵素で、鉛により阻害される。この阻害によりプロトポルフィリンIXが赤血球内に蓄積し、赤血球遊離プロトポルフィリン濃度の上昇として検出される
・反応1(ALA合成酵素)、反応3(ポルフォビリノーゲンからの変換)、反応4(プロトポルフィリノーゲン酸化酵素)は、鉛による直接的な阻害を受ける代表的な反応としては知られていない
各選択肢の解説
× 1 δ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS)による反応は、鉛によって直接阻害される反応としては知られていない
◯ 2 δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)は鉛により阻害され、δ-アミノレブリン酸の蓄積(尿中濃度上昇)を引き起こす
× 3 ポルフォビリノーゲンからヒドロキシメチルビランへの反応は、鉛による直接的な阻害の対象としては知られていない
× 4 プロトポルフィリノーゲン酸化酵素による反応は、鉛による直接的な阻害の対象としては知られていない(この酵素の遺伝的異常は別の疾患である遺伝性コプロポルフィリン症・異型ポルフィリン症等と関連する)
◯ 5 フェロケラターゼは鉛により阻害され、プロトポルフィリンIXの蓄積(赤血球遊離プロトポルフィリン濃度上昇)を引き起こす
× 1 δ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS)による反応は、鉛によって直接阻害される反応としては知られていない
◯ 2 δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)は鉛により阻害され、δ-アミノレブリン酸の蓄積(尿中濃度上昇)を引き起こす
× 3 ポルフォビリノーゲンからヒドロキシメチルビランへの反応は、鉛による直接的な阻害の対象としては知られていない
× 4 プロトポルフィリノーゲン酸化酵素による反応は、鉛による直接的な阻害の対象としては知られていない(この酵素の遺伝的異常は別の疾患である遺伝性コプロポルフィリン症・異型ポルフィリン症等と関連する)
◯ 5 フェロケラターゼは鉛により阻害され、プロトポルフィリンIXの蓄積(赤血球遊離プロトポルフィリン濃度上昇)を引き起こす
引っかけポイント:
・図中の反応番号(1〜5)が多く並んでいるため、どの反応が鉛の標的かを丸暗記だけで判断しようとすると混乱しやすい。検査値の異常(尿中δ-アミノレブリン酸高値、赤血球遊離プロトポルフィリン高値)から、蓄積している代謝産物の直前で反応が止まっている、という考え方で酵素を特定するのが確実
・「δ-アミノレブリン酸が蓄積→その後の反応(脱水酵素、反応2)が止まっている」「プロトポルフィリンIXが蓄積→その後の反応(フェロケラターゼ、反応5)が止まっている」という2段階の推論ができるかがポイント
・図中の反応番号(1〜5)が多く並んでいるため、どの反応が鉛の標的かを丸暗記だけで判断しようとすると混乱しやすい。検査値の異常(尿中δ-アミノレブリン酸高値、赤血球遊離プロトポルフィリン高値)から、蓄積している代謝産物の直前で反応が止まっている、という考え方で酵素を特定するのが確実
・「δ-アミノレブリン酸が蓄積→その後の反応(脱水酵素、反応2)が止まっている」「プロトポルフィリンIXが蓄積→その後の反応(フェロケラターゼ、反応5)が止まっている」という2段階の推論ができるかがポイント
臨床メモ▼


薬剤師 あおい
小児の鉛中毒は、古い塗料(鉛白等)や輸入雑貨・アクセサリーなど、身近なものが原因になることがあります。今回のように「腹痛が続く」「なんとなく元気がない」といった非特異的な症状で受診し、詳しい問診(誤飲・舐める癖の有無など)から原因が判明することも多いため、薬剤師としても生活背景の聞き取りの重要性を意識しておきたい症例です。
ヘム生合成経路の酵素阻害は、鉛中毒以外にもポルフィリン症(先天性の酵素異常症)を理解する上での土台になります。「どの酵素が働かないと、どの中間体が溜まるか」という考え方は、様々な疾患・中毒の理解に応用できる重要な視点です。










