8歳女児。身長128 cm、体重28 kg。前日より突然の発熱、関節痛、咽頭痛、咳嗽が出現し、自宅で経過をみていたが軽快せず、近医を受診した。検査の結果、A型インフルエンザと診断され、処方1〜処方4が記載された処方箋を持参して来局した。薬剤師は処方箋に基づき、吸入薬の使い方や内服薬について説明することにした。
【問262】処方1〜4の薬物の作用機序
処方1:ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(イナビル®)吸入粉末剤 → ノイラミニダーゼ阻害薬
処方2:カルボシステイン(去痰・粘液調整)+アンブロキソール(気道粘液分泌促進・線毛運動亢進)
処方3:メジコン配合(デキストロメトルファン・クレゾールスルホン酸カリウム)→ 中枢性鎮咳薬
処方4:アセトアミノフェン → 解熱鎮痛薬
| 選択肢 | 機序 | 判定・解説 |
|---|---|---|
| 1 | 気道粘膜:漿液分泌↓+線毛運動亢進 | × アンブロキソール(処方2)は漿液分泌を増加させ(サーファクタント産生促進・粘液希釈)かつ線毛運動を亢進させる。「漿液分泌を減少させる」は誤り。漿液増加と線毛亢進の組み合わせが正しい機序。 |
| 2 ★ | 視床下部体温調節中枢→熱放散促進→解熱 | ◯ アセトアミノフェン(処方4)の解熱機序。視床下部の体温調節中枢に作用し、皮膚血管拡張・発汗を促進して熱放散を促進する(COX阻害以外の中枢性機序も関与)。NSAIDsとは異なりプロスタグランジン合成への影響が末梢では少なく、胃腸障害・腎障害のリスクが低い。 |
| 3 | 知覚神経ATP P2X3受容体遮断→神経興奮抑制 | × P2X3受容体拮抗薬(ゲーファピキサント等)は慢性咳嗽治療薬の新しいカテゴリーであり、処方1〜4には含まれない。デキストロメトルファン(処方3)は中枢性鎮咳薬でNMDA受容体拮抗作用を有するが、P2X3受容体遮断ではない。 |
| 4 ★ | 活性代謝物→ノイラミニダーゼ阻害→ウイルス放出抑制 | ◯ ラニナミビルオクタン酸エステル(処方1)の機序。プロドラッグであり、肺内で加水分解されてラニナミビル(活性体)となり、インフルエンザウイルス表面のノイラミニダーゼを阻害する。ノイラミニダーゼが阻害されると感染細胞からのウイルス放出・伝播が抑制される。1回吸入で治療完了(オセルタミビルは5日間服用と対比)。 |
| 5 | ムチンのジスルフィド結合開裂→痰粘調性低下 | × アセチルシステイン(ムコフィリン®等)の機序(粘液溶解薬)。処方2のカルボシステインはムチンの産生比率調整(シアロムチン↑/フコムチン↓)による粘液調整であり、ジスルフィド結合開裂とは異なる。アンブロキソールも漿液増加・線毛亢進であり、ジスルフィド開裂ではない。 |
・選択肢1:アンブロキソールは漿液分泌を「減少」ではなく増加させる。「線毛運動亢進」は正しいが、前半が誤り。
・選択肢4:「活性代謝物が〜ノイラミニダーゼを阻害」とある通り、ラニナミビルはプロドラッグ。オセルタミビル(タミフル®)も同じノイラミニダーゼ阻害薬だが、こちらは経口服用型。
・選択肢5:ジスルフィド結合開裂はアセチルシステインの機序。カルボシステイン・アンブロキソールとは区別が必要。
【問263】薬剤師の対応
| 選択肢 | 対応内容 | 判定・解説 |
|---|---|---|
| 1 ★ | 異常行動→子供から目を離さないよう母親に説明 | ◯ インフルエンザ罹患中の小児・未成年者では、抗インフルエンザ薬の服用有無にかかわらず異常行動(突然の飛び出し・高所から転落など)が報告されている。服薬後2日間程度は特に注意が必要であり、母親への説明は適切な薬剤師対応。処方1(ラニナミビル)に限らずインフルエンザ全般に関わる注意事項。 |
| 2 | 処方1(ラニナミビル吸入)→下を向いて吸入 | × ラニナミビル(イナビル®)吸入粉末剤は顎を上げて(上を向いて)、深くゆっくりと吸入するのが正しい指導。下を向くと粉末が咽頭に沈着しやすく、肺への到達量が減少する。 |
| 3 | 処方1(ラニナミビル)吸入後すぐうがい | × 吸入直後のうがいは不要(むしろ吸入した薬剤が洗い流される可能性がある)。ステロイド吸入薬(フルチカゾン等)の場合は口腔カンジダ予防のため吸入後うがいが必要だが、ラニナミビルには口腔への局所作用がないため不要。 |
| 4 ★ | 処方3(メジコン配合)→眠気に注意と説明 | ◯ メジコン配合シロップのデキストロメトルファンは中枢性鎮咳薬であり、眠気・めまいが副作用として現れることがある。8歳の患児と母親に対して、服用後の注意点として説明するのは適切。登校・自転車・運動時の注意も必要。 |
| 5 | 処方4(アセトアミノフェン)をロキソプロフェンに変更提案 | × ロキソプロフェン(NSAIDs)はインフルエンザ患者、特に小児への使用は禁忌に準ずる。NSAIDsはインフルエンザ脳症を重症化させるリスクがある。また、アスピリン(サリチル酸系)との関連でライ症候群のリスクもある。小児インフルエンザの解熱にはアセトアミノフェンが第一選択であり、変更提案は不適切。 |
・選択肢2:「吸入薬=顔を下に向ける」は誤り。ラニナミビルは顎を上げて深くゆっくり吸入。
・選択肢3:「吸入後うがい」はステロイド吸入薬の指導。ラニナミビルには不要。
・選択肢5:小児インフルエンザへのNSAIDs使用はインフルエンザ脳症重症化リスクから禁忌に準ずる。「解熱薬=ロキソプロフェン」という発想が引っかけ。


インフルエンザと異常行動はインフルエンザシーズンに必ず説明する内容です。「薬のせいで異常行動が起きる」と思われがちですが、薬の有無にかかわらずインフルエンザ罹患そのものによる異常行動が多く、特に10代の若者で報告が多い傾向があります。「解熱後2日間は一人にしない、窓の鍵をかける」という具体的な言葉で伝えましょう。
ラニナミビル(イナビル®)の吸入指導:1本吸入で治療完了という利便性が高い薬剤ですが、正しく吸入できないと効果が出ません。「顎を上げて、息を吐ききってから、深くゆっくり吸う」という3ステップを実演しながら指導するのが理想的です。小児では練習が必要なこともあります。
小児への解熱薬の選択:インフルエンザ・水痘では、アスピリン(ライ症候群)・NSAIDs(脳症重症化)は使用禁忌です。アセトアミノフェン一択と覚えましょう。一方でアセトアミノフェンの過量投与(肝障害)にも注意が必要で、体重に基づく用量確認(10〜15 mg/kg/回)が薬剤師の大切な役割です。本症例:体重28 kg × 15 mg/kg = 420 mg → ドライシロップ20%なら1.5 g(処方通り)で適切。










