8歳女児。近視の薬物治療を希望する母親に連れられて来院した。当院では6歳から18歳未満の中等度近視の小児に対して、低濃度アトロピン硫酸塩点眼薬(院内製剤)を使用した近視進行抑制治療を実施している。診察の結果、中等度近視と診断され、患児及び母親にインフォームド・コンセントを行い、以下の院内製剤が処方された。
【問276】院内製剤・調製法に関する記述
調製法:1%アトロピン硫酸塩水和物点眼液0.5 mL+注射用生理食塩液49.5 mL→総量50 mL→0.01%アトロピン点眼液→5 mLずつ分注
溶媒:注射用生理食塩液(水性)、添加物:亜硫酸水素ナトリウム・ベンザルコニウム塩化物・等張化剤・リン酸塩・pH 5.0〜6.5
| 選択肢 | 記述 | 判定・解説 |
|---|---|---|
| 1 | 非水性点眼剤 | × 注射用生理食塩液(水溶液)で希釈しているため、水性点眼剤である。非水性点眼剤とは油性基剤を用いたもの。 |
| 2 ★ | 無菌的に調製する必要がある | ◯ 点眼剤は眼粘膜に直接適用するため、無菌製剤として調製することが必須。日本薬局方の点眼剤の製造基準に定められており、クリーンベンチ等での無菌操作が求められる。 |
| 3 | 浸透圧は約600 mOsm | × 生理食塩液(0.9% NaCl)の浸透圧は約285〜310 mOsm(等張)。1%アトロピン点眼液0.5 mLを49.5 mLの生理食塩液で希釈しているため、浸透圧は生理食塩液とほぼ同等の約300 mOsm(等張に近い)となる。600 mOsmは高張であり誤り。 |
| 4 ★ | エンドトキシン試験法への適合確認は不要 | ◯ エンドトキシン試験が必要なのは注射剤・点滴剤など非経口注射用製剤が主な対象。点眼剤は眼への局所適用であり、日本薬局方上エンドトキシン試験の適合確認は義務付けられていない。 |
| 5 | 涙液中のNaイオンでゲル化し効果持続 | × ゲル化点眼剤(例:チモプトールXE®、キサラタンゲル®)はジェランガムやカルボポール等の高分子が涙液のイオンや温度でゲル化する製剤。本院内製剤(アトロピン水溶液)にはそのような高分子基剤は含まれておらず、ゲル化はしない。 |
・選択肢3:生理食塩液で希釈しているのだから等張(約300 mOsm)。「注射用」だから高張と勘違いしないよう注意。
・選択肢5:「ゲル化」は特定の高分子製剤(ジェランガム配合等)の特徴。アトロピン水溶液には無関係。
【問277】院内製剤交付時の説明
アトロピン(抗コリン薬)の薬理作用:ムスカリン受容体遮断→散瞳(羞明)・調節麻痺・口渇・頻脈・頭痛・動悸など
低濃度(0.01%)でも全身性副作用の可能性あり。院内製剤は薬事法上の「医薬品」ではなく「調剤」の扱い。
| 選択肢 | 説明内容 | 判定・解説 |
|---|---|---|
| 1 | 効果がなければ点眼量を増やす | × 点眼量は処方通り1回1滴を守る必要がある。自己判断で増量すると全身性副作用(頻脈・散瞳等)のリスクが高まる。「効果がなければ受診」が正しい対応。 |
| 2 ★ | 眩しさを感じることがあるので就寝前点眼 | ◯ アトロピンの散瞳作用(ムスカリン受容体M₃遮断)により羞明(眩しさ)が生じることがある。就寝前に点眼することで日中の羞明・調節障害を最小限にできる。処方に「就寝前」と指定されているのもこの理由。 |
| 3 ★ | 頭痛や動悸といった全身性副作用に注意 | ◯ アトロピンは0.01%の低濃度でも点眼後に鼻涙管を通じて全身吸収される可能性がある。抗コリン作用による頭痛・動悸・口渇・顔面紅潮などの全身性副作用に注意が必要であり、患者への説明は適切。 |
| 4 | 副作用被害救済制度の対象 | × 院内製剤(医師の指示で薬剤師が調製する製剤)は医薬品副作用被害救済制度の対象外。同制度の対象は正規に製造販売承認を受けた医薬品に限られる。院内製剤・治験薬・輸入未承認薬などは対象外。 |
| 5 | 本院内製剤は公的医療保険の適用対象 | × 院内製剤は保険適用の医薬品(薬価収載品)ではないため、公的医療保険の適用外となる。患者は自費(または病院の判断で費用を含む診療費として対応)となる点を説明する必要がある。 |
・選択肢4:「副作用が出たら救済制度がある」は一見正しく思えるが、院内製剤は救済制度の対象外。院内製剤であることを忘れずに。
・選択肢5:院内製剤=保険適用外。「病院でもらった薬だから保険が効く」という思い込みが引っかけの罠。


低濃度アトロピン点眼による近視進行抑制は比較的新しい治療法で、小児眼科領域で注目されています。0.01%という低濃度でも近視進行抑制効果があり、副作用(散瞳・調節麻痺)が少ないことが特徴です。ただし市販の承認製品がなく院内製剤として調製されるケースがほとんどのため、調剤・交付には法的位置づけ(保険外・救済制度外)の説明が必須です。
院内製剤の注意点まとめ:①薬事法上の承認医薬品ではない、②医薬品副作用被害救済制度の対象外、③公的医療保険の適用外(自費)、④調製・品質管理は調製施設の責任、⑤インフォームド・コンセントが特に重要。患者への説明の際はこれらを正確に伝えましょう。
アトロピンの全身吸収と副作用:点眼薬は涙道(鼻涙管)を通じて鼻粘膜から全身吸収されます。点眼後に目頭(涙嚢部)を1〜2分間圧迫することで全身吸収を減らせます(涙嚢圧迫法)。特に小児・高齢者では全身性副作用が出やすいため、点眼後しばらく安静にするよう指導しましょう。










