第110回
問105
理論問題|化学
アセチルCoAの生合成反応
問105(理論)
下図は、アセチルCoAが生合成される一連の反応を模式的に示している。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1
構造式アのMg²⁺は、リン酸部位の陰イオンを電気的に中和し、リン原子の求電子性を高めている。
—
2
矢印イで示した酸素原子は、酢酸イオンに由来する。
—
3
アセチルCoAの点線で囲ったカルボニル基の炭素原子は、矢印ウの硫黄原子を酸素原子に置換したものに比べて求電子性が低い。
—
4
矢印エで示したリン原子は、5価4配位構造をもつキラル中心である。
—
5
アセチルCoAが生合成される過程において、CoA-SHのスルファニル基(チオール基)オは求核剤として作用し、SN2反応によりアシル化される。
—
正解です!
解説でアセチルCoA生合成の反応機構を確認しましょう。
不正解です。正解は 1・2 です。
解説でアセチルCoA生合成の反応機構を確認しましょう。
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アセチルCoAは、ATP+酢酸イオン→アセチルアデニル酸(アセチルAMP)+ピロリン酸という活性化反応を経て、続いてCoA-SHがアセチルAMPを求核攻撃してアセチルCoA+AMPを生じる、という2段階の反応で生合成されます。
反応の流れとポイント
・ATP(構造式ア)のリン酸基はMg²⁺と配位結合しており、負電荷を中和することでリン原子の求電子性を高め、酢酸イオンの求核攻撃を受けやすくする
・酢酸イオンの酸素原子がATPのα位リン原子を攻撃し、ピロリン酸を脱離基として置換反応が進行する(矢印イの酸素原子は酢酸イオン由来)
・生成したアセチルAMPに対し、CoA-SHのチオール基(スルファニル基)が求核剤として作用し、求核アシル置換反応(付加脱離機構)によりアセチルCoAとAMPを生じる(SN2反応ではない)
・チオエステル(アセチルCoA)のカルボニル炭素は、対応する酸素エステルよりも求電子性が高い(硫黄はπ供与による共鳴安定化が弱いため)
・ATP(構造式ア)のリン酸基はMg²⁺と配位結合しており、負電荷を中和することでリン原子の求電子性を高め、酢酸イオンの求核攻撃を受けやすくする
・酢酸イオンの酸素原子がATPのα位リン原子を攻撃し、ピロリン酸を脱離基として置換反応が進行する(矢印イの酸素原子は酢酸イオン由来)
・生成したアセチルAMPに対し、CoA-SHのチオール基(スルファニル基)が求核剤として作用し、求核アシル置換反応(付加脱離機構)によりアセチルCoAとAMPを生じる(SN2反応ではない)
・チオエステル(アセチルCoA)のカルボニル炭素は、対応する酸素エステルよりも求電子性が高い(硫黄はπ供与による共鳴安定化が弱いため)
各選択肢の解説
◯ 1 「Mg²⁺はリン酸部位の陰イオンを中和し、リン原子の求電子性を高める」:Mg²⁺がリン酸基の負電荷を電気的に中和することで、酢酸イオンの酸素求核剤がリン原子を攻撃しやすくなる。正しい
◯ 2 「矢印イの酸素原子は酢酸イオンに由来」:ATPのα位リン原子への求核攻撃において、酢酸イオンの酸素原子がリン原子と新たな結合を形成し、生成物(アセチルAMP)中の橋渡し酸素として保持される。正しい
× 3 「アセチルCoAのカルボニル炭素は酸素置換体より求電子性が低い」:チオエステルは酸素エステルに比べ、硫黄の孤立電子対がカルボニル基へ共鳴的に供与されにくいため、カルボニル炭素の求電子性はむしろ高い。「低い」は逆で誤り(この性質がアシル基転移反応におけるアセチルCoAの高い反応性の理由)
× 4 「矢印エのリン原子はキラル中心」:通常のリン酸ジエステル部分のリン原子は、末端の2つの酸素原子(P=OとP-O⁻)が共鳴により等価となるため、4つの置換基がすべて異なるわけではなく、一般にキラル中心とはならない(硫黄置換体であるホスホロチオエートでは別途キラリティーが生じる)。誤り
× 5 「SN2反応によりアシル化される」:CoA-SHのチオール基がアセチルAMPのカルボニル炭素を攻撃する反応は、求核アシル置換反応(四面体中間体を経る付加脱離機構)であり、飽和炭素上での背面攻撃を特徴とするSN2反応とは異なる。誤り
◯ 1 「Mg²⁺はリン酸部位の陰イオンを中和し、リン原子の求電子性を高める」:Mg²⁺がリン酸基の負電荷を電気的に中和することで、酢酸イオンの酸素求核剤がリン原子を攻撃しやすくなる。正しい
◯ 2 「矢印イの酸素原子は酢酸イオンに由来」:ATPのα位リン原子への求核攻撃において、酢酸イオンの酸素原子がリン原子と新たな結合を形成し、生成物(アセチルAMP)中の橋渡し酸素として保持される。正しい
× 3 「アセチルCoAのカルボニル炭素は酸素置換体より求電子性が低い」:チオエステルは酸素エステルに比べ、硫黄の孤立電子対がカルボニル基へ共鳴的に供与されにくいため、カルボニル炭素の求電子性はむしろ高い。「低い」は逆で誤り(この性質がアシル基転移反応におけるアセチルCoAの高い反応性の理由)
× 4 「矢印エのリン原子はキラル中心」:通常のリン酸ジエステル部分のリン原子は、末端の2つの酸素原子(P=OとP-O⁻)が共鳴により等価となるため、4つの置換基がすべて異なるわけではなく、一般にキラル中心とはならない(硫黄置換体であるホスホロチオエートでは別途キラリティーが生じる)。誤り
× 5 「SN2反応によりアシル化される」:CoA-SHのチオール基がアセチルAMPのカルボニル炭素を攻撃する反応は、求核アシル置換反応(四面体中間体を経る付加脱離機構)であり、飽和炭素上での背面攻撃を特徴とするSN2反応とは異なる。誤り
| 選択肢 | 正誤 |
| 1 ★ | 正しい(Mg²⁺による電荷中和・求電子性向上) |
| 2 ★ | 正しい(酸素は酢酸イオン由来) |
| 3 | 誤り(求電子性は逆に高い) |
| 4 | 誤り(通常はキラル中心にならない) |
| 5 | 誤り(求核アシル置換であってSN2ではない) |
引っかけポイント:
・選択肢3:「チオエステルは反応性が高い(求電子性が高い)」という結論を、硫黄の電気陰性度の低さから「求電子性も低い」と誤って連想しやすい。むしろ硫黄はπ共鳴による安定化が弱いため、カルボニル炭素の求電子性はチオエステルの方が高いという逆の関係を正確に押さえること
・選択肢4:リン原子に4つの酸素が結合していると聞くと機械的に「キラル中心」と判断しがちだが、末端の2つの酸素(P=OとP-O⁻)が共鳴により区別できない ・選択肢5:「求核剤が攻撃して置換が起こる」という表現だけを見てSN2と早合点しやすいが、カルボニル炭素での置換反応は必ず四面体中間体を経る求核アシル置換であり、SN2(一段階の背面攻撃)とは機構が異なる点を区別すること
・選択肢3:「チオエステルは反応性が高い(求電子性が高い)」という結論を、硫黄の電気陰性度の低さから「求電子性も低い」と誤って連想しやすい。むしろ硫黄はπ共鳴による安定化が弱いため、カルボニル炭素の求電子性はチオエステルの方が高いという逆の関係を正確に押さえること
・選択肢4:リン原子に4つの酸素が結合していると聞くと機械的に「キラル中心」と判断しがちだが、末端の2つの酸素(P=OとP-O⁻)が共鳴により区別できない ・選択肢5:「求核剤が攻撃して置換が起こる」という表現だけを見てSN2と早合点しやすいが、カルボニル炭素での置換反応は必ず四面体中間体を経る求核アシル置換であり、SN2(一段階の背面攻撃)とは機構が異なる点を区別すること
臨床メモ▼


薬剤師 あおい
アセチルCoAは、クエン酸回路(TCAサイクル)への入り口であると同時に、脂肪酸合成やコレステロール合成、アセチル化(ヒストンアセチル化等)の基質としても働く、代謝の中心的な化合物です。チオエステル結合の高い反応性(高エネルギー結合)が、これらアシル基転移反応をスムーズに進める鍵になっています。
ATPが「エネルギー通貨」と呼ばれるように、CoA-SHは「アシル基の運び屋」として体内で幅広く働いています。このような生化学の反応機構は、薬理学における酵素阻害薬(アセチル化酵素阻害薬等)の作用機序理解にもつながる基礎知識です。










