【第111回薬剤師国家試験】問100 MALDI-TOF-MS(質量分析法) 解説

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第111回 問100
第111回 問100
理論問題|物理
MALDI-TOF-MS(質量分析法)
問100 この質量分析法に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
感染症の原因菌の同定には、菌体のタンパク質を分析対象として、イオン化部にマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、質量分離部に飛行時間型質量分析計(TOF-MS)を用いる MALDI-TOF-MS が利用されている。この質量分析法に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ
1
マトリックスと混合されたタンパク質は、高電圧を印加したキャピラリー先端から噴霧してイオン化される。
2
タンパク質と混合するマトリックスには、レーザー光を吸収する化合物が選択される。
3
質量分離部では検出器までの飛行時間が短いほど、タンパク質イオンの m/z 値は小さい。
4
この質量分析法の装置は、高速液体クロマトグラフやキャピラリー電気泳動装置と直接接続して用いる。
5
マススペクトルには、タンパク質にマトリックスの質量が付加されたイオンピークが主に観測される。
正解です!
マトリックスはレーザー光を吸収し、TOF-MSでは飛行時間が短いほど m/z が小さい(軽い)イオンです。
×
不正解です。正解は 2 と 3 です。
解説で各選択肢を確認しましょう。
解説を見る
MALDI-TOF-MS の基本原理
① 試料(タンパク質)をマトリックスと混合し、プレート上で共結晶化させる
② レーザー光をマトリックスに照射 → マトリックスがエネルギーを吸収して気化・イオン化 → タンパク質もイオン化される(脱離イオン化)
③ 生成したイオンを電場で加速し、飛行管(真空)に送り込む
④ イオンは同じ運動エネルギーで加速されるため、軽い(m/z が小さい)イオンほど速く飛び、検出器に早く到達する
⑤ 飛行時間から m/z を算出し、マススペクトルを得る

【各選択肢の解説】

選択肢記述判定・理由
1 高電圧キャピラリー先端から噴霧してイオン化 × これはESI(エレクトロスプレーイオン化)法の説明。高電圧を印加したキャピラリーから溶液を噴霧してイオン化する手法であり、MALDI法とは別のイオン化法。
MALDIは試料をプレート上でマトリックスと共結晶化させ、レーザー照射によってイオン化する。
2 ★ マトリックスはレーザー光を吸収する化合物 ◯ MALDIの「MA(Matrix-Assisted)」の本質。マトリックスは使用するレーザーの波長(通常337 nm または 355 nm のUVレーザー)を強く吸収する低分子有機化合物(例:α-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸〔CHCA〕、ジヒドロキシ安息香酸〔DHB〕など)が選ばれる。
マトリックスがレーザーエネルギーを吸収・蓄積し、そのエネルギーでタンパク質をソフトにイオン化することで、タンパク質の断片化を防いで分子全体のイオンを得られる。
3 ★ 飛行時間が短いほど m/z 値は小さい ◯ TOF-MSの原理そのもの。同じ電圧で加速された場合、全イオンは同じ運動エネルギー($E = \frac{1}{2}mv^2$)を持つ。
$m/z$ が小さい(軽い)イオンほど速度 $v$ が大きく、飛行時間 $t$ が短くなる。
∴ 飛行時間が短い → 速度が速い → 質量が小さい → m/z 値は小さい
4 HPLC やキャピラリー電気泳動と直接接続して用いる × HPLCやキャピラリー電気泳動と直接接続できるのはESI-MS(溶液状態のままイオン化できるため)。
MALDI-TOF-MSはプレート上で試料を固体として共結晶化させる必要があるため、液体クロマトグラフなどとのオンライン接続には適さない。オフラインで分画した試料を個別に分析するのが一般的。
5 マトリックスの質量が付加されたイオンピークが主に観測される × MALDI-TOF-MSのマススペクトルで主に観測されるのは、タンパク質のプロトン付加イオン [M+H]⁺ や [M+2H]²⁺ などであり、マトリックスが付加した形のイオンが主ピークになるわけではない。マトリックス由来のピークは低 m/z 領域に多く現れるが、タンパク質の同定には高 m/z 領域のタンパク質本体のピークを用いる。

【TOF-MS の飛行時間と m/z の関係】

加速電圧 $V$ で加速されたイオン(電荷 $z$)の運動エネルギー:
$zeV = \frac{1}{2}mv^2$

速度 $v$ を求めると:
$v = \sqrt{\frac{2zeV}{m}}$

飛行距離 $L$、飛行時間 $t$ とすると $t = L/v$:
$t = L\sqrt{\frac{m}{2zeV}}$ → $t \propto \sqrt{m/z}$

飛行時間 $t$ が短い → $m/z$ が小さい(軽いイオン)
  飛行時間 $t$ が長い → $m/z$ が大きい(重いイオン)
⚠️ 引っかけポイント:
選択肢1:「キャピラリー先端から噴霧」はESI法の特徴。MALDIと混同しやすい
選択肢4:HPLCと接続できるのはESI-MS。MALDI-TOF-MSはオンライン接続には不向き
選択肢5:マトリックスが「付加」されたピークではなく、タンパク質のプロトン付加イオンが主ピーク
臨床メモ
あおい
薬剤師 あおい

MALDI-TOF-MSを用いた細菌同定システム(代表的な製品:VITEK MS、MALDI Biotyper)は、感染症診療の現場に革命をもたらしました。従来の菌種同定は培養後に生化学的性状を調べるため1〜2日かかっていましたが、MALDI-TOF-MSでは培養したコロニーを少量取ってプレートに置くだけで、数分以内に菌種を同定できます。

薬剤師の立場では、この迅速同定の結果をもとに、「de-escalation(抗菌薬の適正化・狭域化)」の提案ができることが重要です。菌種が早く判明すれば、広域抗菌薬から適切な狭域抗菌薬への切り替えを早期に行え、耐性菌の発生抑制や医療費削減にも貢献できます。

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