第111回
問108
理論問題|化学
¹H NMRによる化合物Aの構造決定
問108 塩素 Cl₂ と光を用いて (R)-2-クロロブタンの塩素化を行ったところ、水素の1つが塩素に置換した生成物が数種類生じた。その1つが化合物 A であり、¹H NMR を測定したところ、化学シフト(ppm、基準物質はテトラメチルシラン)、分裂パターン(多重度)及びプロトン数について、以下のピークが観測された。化合物 A の化学構造として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1
—
2
—
3
—
4
—
5
—
正解です!
1,3-ジクロロブタン(CH₃–CHCl–CH₂–CH₂Cl)が4本のNMRピークのパターンと一致します。
不正解です。正解は 5 です。
解説でNMRデータの読み解き方を確認しましょう。
解説を見る
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NMRの読み解き方:3つの情報を組み合わせる
①化学シフト(ppm):どんな環境の水素か(ClやOなど電子求引基に近いほど低磁場=高ppm)
②分裂パターン(n+1則):隣接するH数+1本に分裂。二重線→隣に1H、三重線→隣に2H、四重線→隣に3H、六重線→隣に5H
③プロトン数:積分値から何個のHか
①化学シフト(ppm):どんな環境の水素か(ClやOなど電子求引基に近いほど低磁場=高ppm)
②分裂パターン(n+1則):隣接するH数+1本に分裂。二重線→隣に1H、三重線→隣に2H、四重線→隣に3H、六重線→隣に5H
③プロトン数:積分値から何個のHか
【化合物Aの構造決定:2ステップで絞り込む】
Step 1:プロトン数(積分比)からパーツを予想する
プロトン数「3、2、2、1」から、分子内のパーツを読み取る:
–CH₃(3H)が1つ、–CH₂–(2H)が2つ、–CH–(1H)が1つ
この時点で各選択肢と照らし合わせると:
選択肢2(2,2-ジクロロブタン):CH₃が2つ・CH₂が1つ → プロトン数「3, 3, 2」 ❌
選択肢3・4(2,3-ジクロロブタン):CH₃が2つ・CHが2つ → プロトン数「3, 3, 1, 1」 ❌
∴ この時点で候補は選択肢1と5の二択に絞られる。
Step 2:分裂パターン(n+1則)で確定する
メチル基(3H)のピークに着目。表では二重線=隣のCに水素が1個(1+1=2重線)。
選択肢1(1,2-ジクロロブタン):ClCH₂–CHCl–CH₂–CH₃
末端CH₃の隣は–CH₂–(H が2個)→ 三重線になるはず ❌
選択肢5(1,3-ジクロロブタン):CH₃–CHCl–CH₂–CH₂Cl のCH₃
末端CH₃の隣は–CHCl–(H が1個)→ 二重線と一致 ✓
∴ 選択肢5(1,3-ジクロロブタン)に確定
プロトン数「3、2、2、1」から、分子内のパーツを読み取る:
–CH₃(3H)が1つ、–CH₂–(2H)が2つ、–CH–(1H)が1つ
この時点で各選択肢と照らし合わせると:
選択肢2(2,2-ジクロロブタン):CH₃が2つ・CH₂が1つ → プロトン数「3, 3, 2」 ❌
選択肢3・4(2,3-ジクロロブタン):CH₃が2つ・CHが2つ → プロトン数「3, 3, 1, 1」 ❌
∴ この時点で候補は選択肢1と5の二択に絞られる。
Step 2:分裂パターン(n+1則)で確定する
メチル基(3H)のピークに着目。表では二重線=隣のCに水素が1個(1+1=2重線)。
選択肢1(1,2-ジクロロブタン):ClCH₂–CHCl–CH₂–CH₃
末端CH₃の隣は–CH₂–(H が2個)→ 三重線になるはず ❌
選択肢5(1,3-ジクロロブタン):CH₃–CHCl–CH₂–CH₂Cl のCH₃
末端CH₃の隣は–CHCl–(H が1個)→ 二重線と一致 ✓
∴ 選択肢5(1,3-ジクロロブタン)に確定
【各選択肢の構造とNMRとの不一致点】
| 選択肢 | 化合物名 | NMRとの不一致点 |
|---|---|---|
| 1 | 1,2-ジクロロブタン ClCH₂–CHCl–CH₂–CH₃ |
× ピーク数は4本で一致するが、CH₃(3H)は三重線になるはず(隣にCH₂)。二重線にはならない |
| 2 | 2,2-ジクロロブタン CH₃–CCl₂–CH₂–CH₃ |
× CCl₂は四級炭素でH がなく、六重線(1H)のピークは生じない。ピーク数も異なる |
| 3・4 | 2,3-ジクロロブタン CH₃–CHCl–CHCl–CH₃ |
× CH₃(3H)が2組・CHCl(1H)が2組の合計2種類のピークしか出ない(左右対称な構造のため)。観測された4本のピークとは一致しない。またCHCl(1H)の分裂は、隣のCH₃(3H)+隣のCHCl(1H)=計4Hの影響で五重線になるはずであり、表のデータとも合わない |
| 5 ★ | 1,3-ジクロロブタン CH₃–CHCl–CH₂–CH₂Cl |
◯ 4種類の異なる環境のH(CH₃、CHCl、–CH₂–、CH₂Cl)が存在し、化学シフト・分裂パターン・プロトン数の全てが一致する |
⚠️ 引っかけポイント:
・選択肢1:1,2-ジクロロブタンのCH₃は二重線ではなく三重線になる
・選択肢2:四級炭素(CCl₂)にはHがなく六重線ピークは生じない
・選択肢3・4:左右対称な構造のためピークは2種類のみ。4本のピークが観測されている本問とは一致しない
・「六重線=隣に5個のH」という点が構造決定の最大のカギ
・選択肢1:1,2-ジクロロブタンのCH₃は二重線ではなく三重線になる
・選択肢2:四級炭素(CCl₂)にはHがなく六重線ピークは生じない
・選択肢3・4:左右対称な構造のためピークは2種類のみ。4本のピークが観測されている本問とは一致しない
・「六重線=隣に5個のH」という点が構造決定の最大のカギ
臨床メモ
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薬剤師 あおい
¹H NMRは医薬品の構造確認や不純物検査において欠かせない分析手法です。日本薬局方でも確認試験に用いられており、化学シフト・積分・分裂パターンの3つを組み合わせて構造を同定します。
特に「n+1則」と化学シフトの感覚(Clに隣接→約3〜4 ppm、CH₃単独→約0.9 ppm)を押さえておくと、構造決定問題を素早く解けます。国家試験では今回のように「六重線=隣に5H」という情報が構造を一意に決める決め手になることが多いです。










