【第110回薬剤師国家試験】問103 電子移動を示す巻矢印(curved arrow)の正誤判定 解説

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第110回 問103
第110回 問103
理論問題|化学
電子移動を示す巻矢印(curved arrow)の正誤判定
問103(理論)
以下の反応で、生成物を与える電子移動を示す一連の矢印が正しいのはどれか。2つ選べ。
1
選択肢1の反応機構
2
選択肢2の反応機構
3
選択肢3の反応機構
4
選択肢4の反応機構
5
選択肢5の反応機構
正解です!
解説で巻矢印(curved arrow)の作法を確認しましょう。
×
不正解です。正解は 3・4 です。
解説で巻矢印(curved arrow)の作法を確認しましょう。
解説を見る

巻矢印(curved arrow)は、電子対(結合電子や非共有電子対)の移動を示す表記法です。矢印の始点は電子の出どころ(非共有電子対・π結合・σ結合)終点は電子の受け取り先(新しい結合の形成位置や脱離基)でなければならないという基本ルールがあります。

巻矢印の基本ルール
・矢印の始点:電子豊富な部位(孤立電子対、π結合、σ結合)
・矢印の終点:電子不足な部位(求電子中心の原子、あるいは脱離する原子・基)
・求核付加・置換反応:求核剤の孤立電子対や結合電子が、求電子中心(正電荷を帯びた原子や脱離基が結合した炭素)に向かう
・脱離基が抜ける場合は、脱離する結合からその原子(脱離基)へ向かう矢印が必要
各選択肢の解説
× 1 NaBH₄によるケトンの還元:正しくは、水素化ホウ素イオンのB-H結合の電子対が求電子的なカルボニル炭素へ向かい、同時にC=O結合のπ電子が酸素原子へ移動して(新たにアルコキシドが生じる)2本の矢印が必要である。しかし本問の矢印は、カルボニル炭素側からNaBH₄のHへ向かって描かれており、電子の出どころと受け取り先が逆になっている。誤り
× 2 共役エナミノンの分子内水素移動:N-H結合や二重結合から生成物を導く矢印が描かれているが、示された生成物は出発物質より水素原子が2個多く、単なる分子内での電子(プロトン)移動だけでは説明できない変化を含んでいる。実際には外部からのプロトン供与(酸による活性化)を伴う複数段階の機構が必要であり、本問の矢印だけでは生成物の生成を正しく説明できない。誤り
◯ 3 SN2反応(Williamsonエーテル合成):tert-ブトキシドの酸素上の孤立電子対がヨードメタンの炭素を求核攻撃し、同時にC-I結合の電子がヨウ素(脱離基)へ移動する。求核剤の電子対→求電子中心、脱離基への電子対の移動という基本パターンに合致しており、矢印の向き・本数ともに正しい
◯ 4 芳香族求電子置換反応(ニトロ化):ベンゼン環のπ電子がニトロニウムイオン(求電子剤)を攻撃してアレニウムイオン(シグマ錯体)を生成し、続いてC-H結合の電子が環内に戻ることで芳香族性を回復しながらH⁺が脱離する。求電子置換反応の標準的な2段階の矢印表記として正しい
× 5 カルボカチオンの転位:より安定な三級カルボカチオンへの転位を示そうとしているが、示された矢印の始点(結合の種類)が、生成する中間体の炭素骨格の変化と整合しない。転位反応では、移動する基(水素またはアルキル基)の結合電子対が、隣接する陽電荷炭素へ正しく移動する必要があるが、本問の矢印はその対応関係が崩れている。誤り
選択肢 反応 正誤
1 NaBH₄によるケトンの還元 誤り(矢印の向きが逆)
2 エナミノンの分子内水素移動 誤り(水素数が不整合)
3 ★ SN2反応 正しい
4 ★ 求電子芳香族置換(ニトロ化) 正しい
5 カルボカチオン転位 誤り(矢印の対応が不整合)
引っかけポイント:
選択肢1:「NaBH₄はケトンを還元する」という結論は正しいため、矢印の向きの誤りを見落としやすい。矢印は必ず「電子豊富な側→電子不足な側」という方向で描かれているかを確認する癖をつけること
選択肢2・5:最終的な生成物の構造は化学的に妥当なものが示されているため、「結果が正しそうだから矢印も正しい」と判断してしまいがちだが、矢印そのものが電子の動きを正確に表現しているかを個別に検証する必要がある
選択肢3・4は、求核置換反応・求電子芳香族置換反応という、国試で頻出の標準的な機構をそのまま体現しており、矢印の本数・向き・対応関係すべてが教科書的に正しいパターンである
臨床メモ
あおい
薬剤師 あおい

巻矢印を正確に描けるようになることは、医薬品の代謝経路や分解経路(加水分解、酸化的脱アルキル化など)を理解する上での土台になります。医薬品の構造活性相関や、なぜある部位が代謝を受けやすいのかを考える際にも、電子の偏り(求電子性・求核性)を意識する視点が役立ちます。

国試でこの手の「矢印の正誤判定」問題が出た際は、まず生成物の構造が妥当かを確認し、次に矢印一本一本について「本当にこの部位からこの部位へ電子が動けるか」を機械的にチェックする、という2段階のアプローチがミスを減らすコツです。

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